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弊社では2024年5月に、自然と企業を繋ぐネイチャーポジティブ戦略~TNFDとCDPに求められる生物多様性とは?~を開催。「TNFDについて動画で学びたい」という方は、“アーカイブ動画をみる”ボタンから申し込みページにお進みください。
LEAPアプローチとは、さまざまな業種の企業や金融機関が自然関連課題を評価・管理することを可能とするために、TNFDが開発した評価手法のことです。Scoping(スコーピング)とLocate(発見)・Evaluate(診断)・Assess(評価)・Prepare(準備)の4つのステップからなり、このアプローチを用いた分析を行うことでTNFD開示提言の「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」で開示すべき内容の多くをカバーすることができます。
LEAPアプローチに沿って分析を行う際には、扱うデータは基本的に直接測定された一次データであることが望ましいとされています。
分析の最初のステップとして、二次データを用いて自然関連課題の推定を行うことは可能ですが、それはあくまで本格的な分析までの過渡的な手段としての使用に限られ、徐々に精度を上げていくことが求められています。
では実際にLEAPアプローチでは何をすればいいのか、各ステップに沿って解説していきます。
スコーピングとは、LEAP(発見・診断・評価・準備)という本格的な分析に入る前の準備をするステップのこと。ここではまず、「作業仮説の設定」と「目標とリソースの配分」の大きく2つを行うことで自社と自然の関連を明らかにし、 スコーピング以降のLEAPアプローチでの分析対象範囲を決定します。
具体的に「作業仮説の設定」では、企業の事業活動・事業フローに関して、重要な自然関連課題などを推定。依存や影響などの詳細に関しては後のLEAPアプローチ内で検討するため、本段階では簡易な考察に留めることが推奨されています。また「目標とリソースの配分」では、自社の目標を整理し、それを考慮した上で分析に必要なリソースと時間配分を推定します。
いきなり本格的な分析に入ることはかなりハードルが高いため、スコーピングフェーズで上記2つの観点で検討を行い、事前にLEAPアプローチを実施する事業・組織・製品などの選定を行うことが重要です。
Locateのステップでは、分析範囲における生物多様性の保全上重要な地域(優先地域)を特定します。優先地域とは、①マテリアルな地域:重要な自然関連課題が存在する場所(企業にとって重要な場所)、②要注意地域:脆弱性が高いと判断される場所(自然にとって重要な場所)のいずれかに該当する場所を指し、特定したこれらすべての優先地域の開示が推奨されています。
またTNFDは②に関して、具体的に以下のような項目ごとに分けて基準を示しています。
このようにTNFDでは、レッドリストに記載されている生物の生息地域やKBA、さらに十全性が高いとされる地域などの現在保全が行われている地域も含め、生物多様性の観点で重要とされている地域を特定していくことが大切になります。
では、このような優先地域の特定は具体的にどのように実施すればよいのでしょうか。TNFDは、自社の操業拠点と重要地域との関係の特定にさまざまなツールの使用をガイダンス内で推奨しており、主なツールとして以下の3つが挙げられます。
Aqueductは、日本だけでなく世界各国の住所ごとの水ストレス状況を特定できる無料のツール。水ストレスとは、水の供給が需要に比べて足りていない状況を指すもので、水ストレスの高い地域に拠点を置いている場合、水に関するリスクに繋がると言えます。
IBATは、マップ上に国が指定した保護区やKBAなどが保存されているデータベース。拠点の住所を入力すると、周辺地域に生息するレッドリスト種数や保護区の所在状況等が確認できます。
WWFが出しているBiodiversity Risk Filter による評価は、無料で使用できる生物多様性と水に関してのデータベース。このツールでは、全世界を対象に、生物多様性・水についてのリスクをそれぞれ1~5で評価しており、拠点情報を入力することで企業拠点ごとのリスクを特定することができます。
Evaluateのステップでは、リスクと機会の分析を実施する前に、事業と自然との依存と影響関係の大きく2つを明らかにします。
まず依存の検討においては、企業の事業活動がどの生態系サービスや自然資本に依存しているかの関係を明らかにし、その活動が社会経済にどのように関わっているか、までの流れを含めた依存関係を把握。一方影響の検討においては、企業の事業活動が自然資本にどのような影響を及ぼすか、そしてそこから社会経済へどのように影響が波及していくか、という一連の流れを把握します。
EvaluateでもLocateと同様に、TNFDが活用を推奨するさまざまな分析ツールが存在します。
上記のツールはどちらも、企業の事業活動が自然とどのような接点を持つかということを特定するためのものです。
具体的に言うとENCOREは、事業プロセスの一覧から企業が実際に行っているプロセスを選択することで、そのプロセスが自然にどのような影響を与え依存しているか、またそのレベル感を「 Very Low~Very High」で表示してくれるデータベース。このツールでは、地域特有の情報を加味することはできず、事業プロセスに対して一般的に考えられる自然への依存や影響を特定することができます。
一方でSBTN High Impact Commodity Listは、事業プロセスではなく、使用材料に関して、それを使う企業が使用によって自然にどのような影響を与えるかを特定することができるエクセルのデータベース。黄色い枠で囲まれた部分に、自然への影響が書かれており、データベースに登録された品目の一般的に考えられる影響項目を参照することができます。
Assessのステップでは、Evaluateで特定した依存と影響から企業が受けると考えられるリスクと機会を明らかにします。
まずリスクの例としては、Evaluateで水資源への依存が大きいと特定された場合に、工場の排水等で水源地が汚染されることで事業用水の調達が困難になるというケースが考えられます。
また機会の例としては、上図のようなケースが考えられます。Evaluateで森林資源への依存が大きいと特定された場合に、消費者の認証取得商品への選好が高まり、購買行動に繋がることに。このことから認証取得によって、企業は商品の売上増加が見込まれます。
以上のような例を洗い出し、まとめることで、企業が潜在的に持つ機会とリスクをしっかりと把握することが可能になるのです。
最後にPrepareのステップでは、今までのステップを通して特定された依存、影響、リスク、機会に対する対応策の決定や目標設定を行い、開示の準備を進めます。
対応策の策定に関して、TNFDは対応策を決定する際の指針として、SBTNのAR3Tフレームワークの採用を推奨しています。このフレームワークは、「回避」「軽減」「復元・再生」「変革」の大きく4つに分かれるもの。回避ができなければ軽減、その次に復元…のように順を追った対応を示しています。
また目標を設定する際には、SBTNが提示する手順に沿って設定することが推奨されており、全企業が開示の対象となる14のグローバル中核指標を中心として複数の指標の開示が求められます。グローバル中核目標では開示しない場合にはその理由を説明することが求められるため、まずは重要な特定できるものに取り組み、難しいものは今後調査して開示するという姿勢を見せることがとても大切です。
今回のコラムでは、LEAPアプローチの各ステップで取り組む内容や、分析に役立つツールなどをお伝えしてきました。ただ実際、そもそも自社が自然とどのような関わりがあるかわからないとお悩みの企業様もいらっしゃると思います。とはいえ一切開示を行わない場合には、生物多様性について配慮が足りない、遅れていると評価を受けてしまう可能性も。そのためまずは、自社にとってTNFDがどれくらい重要なのか検討するためにも、まずは可能な範囲から開示を知ることをおすすめいたします。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
出典:
LEAP/TNFDの解説. (2023, November 29). 環境省.