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TCFD提言におけるシナリオ分析とは、気候変動が引き起こす不確実な未来において、複数のシナリオを想定し、それぞれの状況下で「企業に及ぼす影響がどういったものがあるのか」を予測しながら、レジリエンス性のある経営戦略を敷いていくためのフレームワークのことを指します。
シナリオ分析を行う目的は以下にあります。
【複数のシナリオを想定し、戦略の妥当性を確認】
シナリオというのはあくまで仮説であり、詳細な結果や予想を得ることが目的ではなく、将来の可能性を検討するための道具となります。
複数の可能性(シナリオ)を想定し、いかなる条件下においても、現在検討したビジネス戦略が長期的に継続して成果を出すことができるのか、仮に変化が生じても柔軟性をもって適応していけるのか、経営戦略として考慮し中長期的な対策を検討するために分析を行います。
また、事前分析をしておくことによって、各ステークホルダーから説明を求められた際に、円滑なコミュニケーションを実現できる材料にもなります。
はじめに、シナリオ分析する対象の事業範囲を決定します。
など、さまざまな範囲が想定されます
TCFD提言に基づく、シナリオ分析においては「できる範囲から始める」というのがセオリーとなっていますが、範囲を決定する軸として、環境省からは例として以下3つが紹介されています。
つづいて、分析対象の時間軸の設定を行います。
傾向として、2030年と2050年どちらの時間軸で分析をおこなうか議論になるケースが多々あります。
どの時点の世界観を分析するかによって、気候変動の影響が異なるため、参照可能なデータや事業計画との整合性を鑑みて判断することになります。
リスク重要度評価は、予想するステップとなります。
第一段階として、重要度の大きい小さいに限らず、想定できるリスクや機会を一覧化していきます。その際は、TCFD提言が例示しているリスク・機会、さらには外部レポート・競合他社のCDP回答情報を比較することで、幅広く検討・列挙をし、想定外をできる限りなくしていきます。
第二段階に、列挙されたリスクや機会項目について、関係する各事業所とディスカッションしながら起こり得る影響がどういったものがあるかについて定性的に表現していきます。
第三段階に、定性的に表現したリスクや機会の重要度であたりを付けていきます。自社にとって、影響範囲が大きいリスク・機会や、重要商品に係るリスク・機会を「大」とし、自社に影響が全くないリスク・機会は「小」、それ以外を「中」とすることが一つの手法とされています。
シナリオ群の定義は、仮説を立てるステップとなります。
概要面で言うと、複数のシナリオの選定とシナリオに基づくパラメータから世界観を整理し、会社への影響を整理・考察します。社内における共通認識を図るために重要な手段となります。
具体的には次の流れとなります。
事業インパクト評価は、立てた仮説を基に定量的に分析するステップとなります。
STEP3で選択した複数のシナリオ下で、企業に与える財務的影響額を試算することになります。
例として、将来的に炭素税が導入され、企業の事業活動に伴うCO2を算定した場合の課税金額を計算し、財務的影響額を把握することが挙げられます。
影響額を把握するためには、外部予測値レポートと社内データを使った試算ロジックを組み立てるところから始まります。
社内データは、関係部署に依頼してデータの共有をしてもらうことになるため、TCFD提言に沿った情報開示についての理解が社内に浸透していることで、スムーズに作業を進めることができます。
気候変動における事業インパクト評価は、対策をした場合のインパクトと、対策をしなかった場合のインパクトを可視化していくことが重要とされています。
先程の炭素税の例で言うと、CO2排出量について、既存の製造ライン上の改善を何もしない場合における炭素税額と、省エネに資する製造設備に取り換えて排出量を削減した場合における炭素税額を可視化していきます。
このように複数のパターンを想定し、自社の経営にどれだけのネガティブインパクトをもたらすのか、そしてネガティブインパクトをもたらした原因を排除し、ポジティブインパクトを創出できるトリガーを視覚的に理解し、自社への気候変動影響について、積極的に議論ができる材料となります。経営層との議論においても、自社がどのような方向性に進むべきか議論がしやすくなると想定されます。
対応策の定義は、定性的・定量的に分析した結果に対して対策を立てるステップとなります。
気候変動対策における理念やビジョンが、自社の戦略や財務計画に反映されていない場合、改めて修正、検討を行って最終的には中期経営計画にも加味されることが重要とされています。
STEP4で試算したインパクトの結果を基に、可能な限り、考えられる対策案を列挙していきます。その際、既に会社の中で取り組んでいるものが含まれている可能性もあるので、関連部署と連携を行いながら進めていきます。
また自社の視点だけでなく、同様の課題に対して他社ではどのような施策をうっているのかについても比較検討することで幅広い対応策案を検討することができます。
そして今回のシナリオ分析で浮き彫りになったリスクや機会について、リスク軽減のための対策や機会獲得のための施策を検討し、どの部署が対応していくのかについても議論していきます。
TCFD提言におけるシナリオ分析は、「分析して終わり」ではなく、継続的に分析・モニタリングしていくことが重要となっています。
これまでのSTEPで分析したものを開示するフェーズになります。
シナリオ分析だけでなく、気候変動に対するガバナンス(経営体制)も含めて、企業がどのような対応をしていくのかを明示することが重要となります。
投資家や有識者のヒアリング結果では、「開示そのものが評価されるわけではなく、リスク・機会の整理結果や、シナリオ分析結果を踏まえた経営戦略への影響を示すことが重要」とされています。
その他、以下のような意見に沿って対応することも必要であります。
現在、政府・投資家・ビジネスパートナー等から企業に対し、環境経営に関する情報開示の要請が強まっています。
マルチステークホルダーから気候変動対応の要請が加速しており、経営層へインプットしていくことが重要となります。
TCFDとは何かを認識してもらい、シナリオ分析に必要な取り組みをトップダウンで旗振りをしてもらうことで、社内の連携もスムーズになります。
シナリオ分析の担当をしている部署のみならず、経営陣が直接関与していくことで経営体制に気候変動対応を組み込むことが今後の企業成長を促すことにもつながります。
シナリオ分析には社内の巻き込みが必要とされています。
分析の初期段階から関連部署を巻き込み、各部署に気候変動対応することの重要性を理解してもらいながら、「自分事」に考えてもらうことが重要とされています。
環境省が推奨している巻き込みのパターンとして、下記2パターンがあります。
まず一つ目に、シナリオ分析を実施している過程で、都度、必要な部署を巻き込むパターンです。メリット・デメリットについて説明します。
<メリット>
<デメリット>
続いて二つ目はシナリオ分析の社内チームを作って、スタートさせるパターンです。
こちらもメリット・デメリットについて説明いたします。
<メリット>
<デメリット>
出典:環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ』
環境について担当している部署だけでなく、関連部門を巻き込んだ本格的な取り組みはスタートするにはハードルが高いとされています。
しかし当社の支援させていただいている企業様では、最初の段階から2パターン目のチームを作って対応しているケースが多い印象があります。
またそこから、毎月の気候変動について審議する専門委員会にて経営陣にも都度報告を行っているため、全員が同じ目線をもつことができる効果もあると考えています。
限られた関係部署だけが携わるのではなく、企業内でチームワークを働かせ、より良いものを作り上げていくことが重要となります。
シナリオ分析は、“できるところから”スタートし、“段階的に充実”させることが重要となります。
当社の支援させていただいている企業様でも、初めてTCFD提言に基づいたシナリオ分析を開始される企業様がいらっしゃいます。
その中でも初年度から最初のSTEPから最後のSTEPまで取り組む企業様もいらっしゃいますが、段階的な開示を行う企業様もいらっしゃいます。
例として、
など様々なケースがありますが、自社の状況に合わせて
段階的開示をすることでスタートを早めることができます。
今後、気候変動の影響がさらに深刻化した場合、企業経営に対する影響は確実に大きくなるため、そのリスクと機会を的確に把握することは重要になってきます。
これまで事業を行っていくうえで、リスクマネジメントの一つに「環境リスク」や「社会リスク」、「経済リスク」などといったものが中心でした。
そして、気候変動を含むサステナビリティリスクの発生が年々増加していく中で、企業はあらゆるリスクに対して包括的な管理体制を求められるようになってきました。
気候変動由来のリスクは負の影響をもたらすことは当然なのですが、企業にとっては、プラスの影響をもたらす「機会」にもなりえます。
TCFD提言に基づきシナリオ分析をしてみた結果、脱炭素社会に移行していく中で、自社商品の購買ニーズが増加、再生可能エネルギー由来の電力を使うことによってCO2排出量が抑えられることにより、炭素税の課税リスク低減・投資家からの評判向上など、企業にもたらすメリットが多数予想することができます。
したがって、気候変動を含むサステナビリティに関して、企業成長の促進という面でのサステナビリティ機会の最大化、逆に成長を阻むリスクの軽減を両軸で推進していき、投資家や金融機関からの投融資を受けながらTCFD提言に基づいたシナリオ分析を行うことが重要となります。
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