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弊社では2024年4月にGHG削減に向けたSBT認定活用ウェビナーを開催。
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現在非財務情報開示のグローバルスタンダードとして地位を確立しつつあるCDP。CDPのように数的目標は掲げず「スコアリング」を目的とする団体がある一方で、明確な目標を設定するイニシアチブ、SBT認定が存在します。
CDPへの回答が企業の気候変動への意欲を示す第一歩であったとすれば、SBT認定は、その意欲を具体的な数値目標に昇華させ、更なるスコアアップを目指す次のステップと言えるでしょう。さて、そんなSBT認定には、どのようなポイントがあるのでしょうか?それを詳しくご紹介します。
そもそもSBTとは「パリ協定が求める⽔準と整合した温室効果ガス排出量削減を目指す、国際的な削減目標」のこと。“パリ協定が求める水準”とは、「世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に抑え、さらに1.5℃に抑える努力をすること」を指します。
では実際にSBT認定を取得するには、どのような対応が必要なのでしょうか?下記にて、SBT認定を取得するための大まかな手順を説明いたします。
【1】Commitment Letter(※)を事務局に提出(任意)
※「2年以内にSBT認定を取得する」と宣言する書類
【2】目標を設定し、申請書を事務局に提出
【3】SBT事務局による目標の妥当性確認・回答(有料)
【4】認定された場合はSBT等のウェブサイトにて公表
【5】排出量と対策の進捗状況を年一回報告し、開示
【6】定期的に、目標の妥当性を確認
※大きな変化が生じた場合は必要に応じ目標を再設定(少なくとも5年に1度は再評価)
またSBT認定を取得するには、さまざまな要件を達成する必要があります。今回は、その中からいくつかの重要な項目を下記の表にまとめました。
これらの要件を満たしSBT認定を取得すれば、積極的な気候変動対策をしている企業であることをアピールすることに繋がります。
SBTの情報によると2024年2月8日時点で、認定企業は4,565社、コミット企業は2,914社の合計7,479社がSBTに参加。2023年3月と比べると、認定企業は2,256社で102%、コミット企業は2,554社で14%増加しており、今後も参画企業の数は増えていくと考えられます。
ちなみに「認定企業」とはすでにSBTに目標が認められた企業のことを指し、「コミット企業」とは2年以内にSBT認定を取得することを表明している企業のことを指します。
このようにSBT参加企業は年々増加中。そして日本もその例外ではありません。国別で見ると、2024年2月現在、SBT認定を取得した企業数が最も多い国は日本で853社。ついでイギリスが744社、アメリカが495社という結果になっています。
認定取得企業の約20%を日本が占めていることから、SBT認定・コミットメントにおいて、日本が世界水準で最も先進的であり、かつ積極的に取り組んでいることが分かります。
SBT認定取得企業数が世界トップとなっている日本。2023年9月時点の環境省の統計では、日本の認定取得企業を産業分野別で見ると電気機器・建設業が多くなっていることが分かります。
では、SBT認定を取得している企業は実際にどのような目標を立てているのでしょうか。
化粧品やコスメ品などを提供するグループ企業である花王は、2019年4月に策定したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)において、科学的根拠に基づいて設定した「Scope1,2,3 CO2排出量(絶対量)削減率 2030年までに22%」という目標でSBT認定を獲得。現在、同社は2040年カーボンゼロを目指すべく2030年までのScope1,2,3のCO₂排出削減量を55%まで引き上げ、さらなる環境経営を推進しています。
また、戸建て住宅を提供するハウスメーカーである積水ハウスは2023年6月、温室効果ガス削減でSBT1.5℃目標の認定を取得しています。具体的には、
の3つを目標に掲げ、持続可能な社会構築の貢献を明言しています。
両社とも2023年のCDP情報開示で(世界で10社しか達成することができなかった)「トリプルA企業」に選定されている世界有数のESG企業。自社の削減目標検討の際にはぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
現在、SBT認証制度には、対象を限定しない通常のSBTと、従業員500人未満・非子会社・独立系企業の条件を満たす中小企業を対象としたSBTの2種類が存在します。
中小企業向けSBTは通常のSBTと比べて取り組みやすく、日本国内では、SBT認定取得企業853社中654社の中小企業がこの中小企業向けSBTを利用しています。具体的な内容の違いを下記表にまとめましたのでご覧ください。
まず中小企業向けSBTでは、削減対象範囲がScope1, 2に限定されており、自社内の取り組みのみで達成可能な目標を設定できるため通常のSBTよりもハードルが低く、取り組みやすい制度であると言えます。
また、中小企業向けSBTの費用は1回1,000ドルと、通常SBTの4,750ドル約1/5程に抑えられており、SBTiに提出後も自動で承認されるという簡易なプロセス。こうした背景金銭・時間的なコストの負担も少なくなっていると言えます。
参加企業が年々増えているSBTですが、取り組むことにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここではSBTへの取り組みを通して得られる4つのメリットについてお伝えします。
2017年以降、CDPではSBTに関する質問を追加。SBT認定を取得した場合、CDPの評価基準にある「リーダーシップ」ポイントにおいて得点を獲得し、最高位のスコアAに近づくことができます。実際2022年のCDP気候変動質問書では、多くの企業がSBT認定によりスコアアップを達成。スコアAを取得した全75社のうち、SBT認定企業は57社、コミット企業は4社という結果となりました。さらにCDPでハイスコアを獲得することによって、投資家からの評価もアップ。結果的にESG投資促進にも寄与すると言われています。
たとえば、CDP気候変動質問書でスコアAを維持しているランド・セキュリティーズ(英国不動産業)もSBT認定を取得。「最新の科学に沿って目標を更新し続ける限り、私たちの目標は、今後50年、投資家の要求に対して私たちの事業を確実なものとしてくれます。」と述べ、SBT認定を取得した結果、投資家との関係強化に成功し長期的な投資の見通しが立ったことを公表しています。
内装建材を製造している朝日ウッドテックは、大手取引先から要請を受けてSBTの認定を取得。というのも取引先のリスク意識が高い場合、サプライヤーに対しても野心度の高い目標や取り組みを要求することがあるのです。そのためSBT認定の取得がリスク意識の高い顧客の要望に応える手段となることも。自社のビジネス展開におけるリスクを低減し、機会を獲得することに繋がります。
SBT認定では、サプライチェーン全体の目標を設定。その目標をサプライヤーに共有することで、サプライチェーンの調達リスク低減へ繋げることができます。
たとえばシリアル食品で有名なケロッグは、Scope3の総排出量を、2015年を基準年として2030年までに20%、2050年までに50%を削減すると宣⾔。⽬標を設定して以来、排出量や調達物に関するCDPの質問に答えるようサプライヤーに奨励をしています。すでに400社超とエンゲージメントを促進し、全サプライヤーに全体的なScope3⽬標を設定させるまでに至りました。
SBTの削減目標を達成する際には、省エネや再エネ、働き方改革などといった変革が必要不可欠。洋上風力発電で世界最大手のデンマーク企業「Ørsted」は、もともとは化石燃料に固執した事業を展開していました。しかし、気候変動対策とGHG排出削減が求められる中で、完全な再⽣可能エネルギー企業へと事業転換するという目標を設定。その目標の大部分は、SBT基準に照らし合わせてGHG排出量削減を実施していくこととなりました。
GHG排出量を削減していくために、2023年までにすべての発電所で石炭の使用を停止し、上流の石油・ガス事業を売却。細かい実績として、2006年以来、発電所での石炭消費量を82%削減し、 2023年までに石炭を完全に廃止予定としています。SBT目標を設定することは、「再生可能エネルギー市場における強力なプレーヤーとしての地位を確立し、気候リスクをビジネスチャンスに変えることができた」とコメントしています。
このように企業のSBT認定取得は、投資家や取引先といったステークホルダーに対して、持続可能な企業であることを分かりやすくアピールすることや、大きな社内変革を促すことに繋がります。その結果、サステナビリティにおける評価向上や、リスク低減・機会獲得が叶うのです。
今回のコラムではSBT認定の概要や取得までのステップ、取得することで得られるさまざまなメリットについて紹介してきました。多方面に対してメリットがあり、取得企業も年々増加しているSBT認定。環境省は毎年20社程度を上限にSBT設定支援事業を行っており、また取引先に取得を要請された事例からも分かるように、その存在感が大きくなっていることは明らかでしょう。いざ要請された時困らないよう、まずはSBT認定を知ることから始めてみることをおすすめします。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。SBT認定の取得を希望する企業様で、
『取引先から要求されているけれど、何から取り組めば良いか分からない』
『自社の場合、中小版SBTと通常のSBTどちらを取得すべき?』
とお悩みの方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。準備段階の算定支援から目標の設定、申請書の作成支援までトータルでご支援いたします。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
出典:
SBTの概要. (2023, September 30). 環境省.
環境省 SBT設定支援事業. (2023, September 30). 環境省.
花王の温室効果ガス削減目標がSBTイニシアチブの認定を取得. (2019, July 4). Kao.
新たな「脱炭素」目標を策定 2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブをめざす. (2021, May 19). Kao.
温室効果ガス削減で「SBTイニシアチブ」1.5℃目標の認定を取得. (2023, June 9). SEKISUI HOUSE.
『カーボンニュートラル実現に向けた関西企業等の取組事例. (2023, August 16). 経済産業省近畿経済産業局』
『SBTi監視レポート2022. (2024, August). SBTi.』
COMPANIES TAKING ACTION. Science Based Targets.
SBT(Science Based Targets)について. (2022, March). Science Based Targets.