欧州電池規則の特徴と日本企業への影響を学ぶ 

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サムネイル:欧州電池規則の特徴と日本企業への影響を学ぶ

欧州電池規則とは

欧州電池規則(英:EU Battery Regulation)とは、EU市場内における軍事・宇宙・原子目的を除いたすべての電池製品について、義務的要件を定めるとされた規則のことです。

欧州電池規則は、これまでの「電池指令(2006/66/EC)」を改正して新たな「電池規則」案として2020年12月に提案、その後欧州議会とEU知事会による政治合意と採択を経て、2023年7月28日にEU官報で公布、8月17日に施行されました。そして今年から順次、各義務が適用されていく予定です。

電池製品のリサイクルを主な目的としていた「電池指令」に対して、本規則はEUの新しい成長戦略である「グリーンディール」や、電池に関する戦略的行動計画「新循環経済行動計画」、そのほかにも欧州委員会によって採択されたさまざまな公約と報告書に基づいているのが特徴です。

本コラムでは、欧州電池規則の目的や対象、日本の企業にどのような影響をもたらすのか、分かりやすく説明します。

欧州電池規則の目的

欧州電池規則の目的として、2020年に提案された段階では以下の目的が掲げられていました。 

原文抜粋:)

The proposal’s objectives are threefold: 1) strengthening the functioning of the internal market (including products, processes, waste batteries and recyclates), by ensuring a level playing field through a common set of rules; 2) promoting a circular economy; and 3) reducing environmental and social impacts throughout all stages of the battery life cycle. These three objectives are strongly interlinked.

Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL Concerning Batteries and Waste Batteries, Repealing Directive 2006/66/EC and Amending Regulation (EU) No 2019/1020. (2020, December 10). EUROPEAN COMMISSION.

1)共通ルールに基づく公平な競争条件を確保し、EU市場の機能を全段階において強化すること

2)循環型経済を推進すること

3)電池のライフサイクルの全段階を通じて環境および社会的影響を削減すること

上記の提案を通じて、欧州電池規則では電池製品を、原材料の調達から製造工程、廃棄やリサイクル品までにいたる全段階を可視化させることを義務づけています。

欧州電池規則の対象

欧州電池規則では自動車用・携帯型、製品に組み込まれたバッテリーなど、EU域内で販売される(軍事・宇宙・原子目的を除く)すべての電池製品を対象としており、生産者や販売業者に対しては製品が欧州電池規則の要件に適応していることを確認する義務が生じてきます。具体的には生産者による生産登録簿の登録義務、CEマーク(*)の有無、必要書類がつけられていること、欧州電池規則に適合しない電池製品がすでに流通している場合の措置や通知義務といったものがあげられます。

(*)CEマークとは、EUで販売される製品が、EUの安全基準を満たしている場合につけられるマークのこと。CEマークがついていない商品はEU圏に輸出できない。

ちなみに、バッテリーは

  • ポータブルバッテリー
  • SLI(Starting, lightning and ignition)バッテリー
  • LMT(Light means of transport)バッテリー
  • 産業用バッテリー
  • EV(Electric vehicle)バッテリー

の5種類に分類されています。

表)バッテリーの分類、定義

Table:バッテリーの分類、定義
出典:Regulation (EU) 2023/1542 of the European Parliament and of the Council of 12 July 2023 Concerning Batteries and Waste Batteries, Amending Directive 2008/98/EC and Regulation (EU) 2019/1020 and Repealing Directive 2006/66/EC (Text with EEA Relevance). (2023, July 12). European Parliament and of the Council. を基に弊社作成

欧州電池規則の内容

欧州電池規則では、主に以下の内容が取り挙げられています。

  • カーボンフットプリントの宣言(第7条)
  • リサイクル成分の使用割合(第8条)
  • デューデリジェンス方針(第47条~第53条)

カーボンフットプリントの宣言

EVバッテリー、2kWh超の充電可能な産業用バッテリー、LMTバッテリーについて、製造工場の情報や、バッテリーモデルに関する情報等を含むカーボンフットプリントを宣言することが求められます。調査結果はWebサイトに公表し、今後は製品にラベルを付与する必要があります。 

カーボンフットプリントについて詳しく知りたい方は、こちらのコラムも併せてご覧くださいませ。

カーボンフットプリント(CFP)とは?注目されている理由や算定方法について紹介

リサイクル成分の使用割合

今後EU域内でバッテリーを使用した製品を販売する場合、バッテリーに使用したリサイクル成分(コバルト、鉛、リチウム、ニッケル)の割合を公表する必要があります。

具体的には、コバルト、鉛、リチウム、ニッケルの順に、リサイクル由来で

2031年から⇒16%/85%/6%/6%

2035年から⇒26%/85%/12%/15%

含んでいることを立証しなければなりません。また、製造工場や年度、バッテリーモデルごとの報告が求められています。

デューデリジェンス方針

デューデリジェンスとは、企業に課せられる注意義務、責務のことです。欧州電池規則では、対象となるバッテリーの原材料(コバルト、鉛、リチウム、ニッケル等)を生産する際に、自然環境、生物多様性への影響、騒音問題、工場の安全性といった環境リスクや人権問題・労働環境・先住民の社会生活といった社会リスクを踏まえた活動をすることが責務として課せられています。

そのほかにも、バッテリーの適合性評価や使用済みバッテリーの回収・処理に関する内容、当局への報告内容などが記述されています。

日本企業への影響

欧州電池規則による日本企業への影響としては主に二点あげられます。

  • 自動車産業
  • 蓄電池産業

それぞれ見ていきましょう。

自動車産業

自動車産業

本規則ではEV車のバッテリーに関する厳しい環境基準やリサイクル・破棄に関する規定も強化されているため、日本の自動車メーカーはこれらに対応するための技術開発やサプライチェーンの見直しを迫られることになります。これによって見込まれるコスト増が課題として想定されますが、それと同時に世界に日本の技術力をアピールできる機会にもなりうるでしょう。

蓄電池産業

蓄電池産業

本規則では蓄電池の持続可能性、性能、耐久性に関する厳格な基準を導入しているため、日本の蓄電池メーカーはこれらに適合した製品の開発・生産が必要となります。またEU市場との競争力維持のためエコデザインの強化や技術革新などがグローバル市場拡大の要素と考えられます。

各国の蓄電池に関する政策

ここで、各国の蓄電池に関する政策の例をご紹介します。

  • 米国:クリーンエネルギー政策
  • 中国:14次五カ年計画

それぞれ見ていきましょう。

(米)クリーンエネルギー政策

米国内における再生可能エネルギーの拡大と温室効果ガスの削減を目指すための政策です。米国政府は2035年までに100%カーボンフリーな電力(太陽光・風力、水力、原子力、地熱、バイオマス発電、蓄電システム)、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げたもので、蓄電池に関しては電気自動車の普及を推進しています。

(中)14次五カ年計画(2021~2025年)

中国政府は2021年に「14次五カ年計画」を発表しました。中国では、車載バッテリーで世界トップシェアを誇るCATLをはじめとしてさまざまな蓄電池企業が盛んです。この計画では蓄電池の技術開発と産業化を推進していくため国による補助金や税制優遇措置の導入、インフラ整備を通じて蓄電池産業の競争力強化を図っています。

まとめ

欧州電池規則が今年から本格的に適用されていくと、EUや周辺諸国のみならず日本企業にもさまざまな影響がもたらされるでしょう。特に自動車産業やバッテリー関連産業では本規則に参入する予定の企業も多いため早急な対応が迫られる可能性があります。日本市場が縮小していく中、多くの日本企業にとって「サプライチェーンのグローバル化」は今後拡大していかなければならない重要課題の一つです。本規則の内容を把握し、適用に合わせて今から対策をしていくことが大切であるといえます。

弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

<出典>

Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL Concerning Batteries and Waste Batteries, Repealing Directive 2006/66/EC and Amending Regulation (EU) No 2019/1020. (2020, December 10). EUROPEAN COMMISSION.

Regulation (EU) 2023/1542 of the European Parliament and of the Council of 12 July 2023 Concerning Batteries and Waste Batteries, Amending Directive 2008/98/EC and Regulation (EU) 2019/1020 and Repealing Directive 2006/66/EC (Text with EEA Relevance). (2023, July 12). European Parliament and of the Council.

Directive 2006/66/EC of the European Parliament and of the Council of 6 September 2006 on Batteries and Accumulators and Waste Batteries and Accumulators and Repealing Directive 91/157/EEC (Text with EEA Relevance). (2006, September 6). THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL.

FACT SHEET: President Biden Signs Executive Order Catalyzing America’s Clean Energy Economy Through Federal Sustainability. (2021, December 8). THE WHITE HOUSE.

・RIETI 独立行政法人経済産業研究所(RIETI Research Institute of Economy, Trade and Industry)- 始動する中国における第14次五ヵ年計画 ― 「質の高い発展」を目指して ―

八部门关于印发《“十四五”智能制造发展规划》的通知. (2021, December 21). 中華人民共和国中央人民政府.

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