近年、サーキュラーエコノミー(循環経済)の考え方が世界中で注目されています。各国では、資源の再利用や循環を促進するための規制が強化される動きも活発化しています。このような取り組みは環境課題の解決に寄与するだけでなく、ビジネスにおいても新たな機会を創出する可能性も。今回は、その一例としてEUが推進する「欧州ELV指令」に焦点を当てます。
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欧州ELV指令は、2000年にEUで制定され、廃自動車(ELV:End-of-Life Vehicle)のリサイクル推進を目的としています。それ以前は国ごとに異なる法制度で自動車リサイクルが行われており、指令の発効後、EU全体で共通の取り組み推進が期待されました。この指令に基づき、メーカーは指定された解体業者を通じた車両引取りの無償化を義務付けられ、リサイクルにかかる一部費用を負担することになったのです。
また、2003年以降には、鉛や水銀といった特定有害重金属の自動車部品への使用も制限され、環境への負荷低減が図られました。
さらに近年、循環型経済の普及と企業の社会的責任がより一層強く求められているなか、2023年には循環型の自動車産業や製造者の責任を強化する「自動車の循環設計とELV管理規則」として見直しが行われています。
欧州ELV指令には、車両への有害物質の使用規制や廃自動車のリサイクル推進が示されています。ここからは欧州ELV指令の詳しい内容について解説します。
欧州ELV指令は、乗用車や小型商用車を中心に、廃自動車の回収とリサイクルを規定しています。一部の三輪自動車も対象に含まれていますが、特殊目的車両などは適用除外となる場合も。
この指令では、廃自動車およびその部品や材料が適切に再利用・リサイクルされる仕組みを構築することが求められており、自動車産業全体にわたる環境負荷の軽減が目指されています。2023年の改正により、対象となる車両が段階的に拡大される見込みです。
さらに、指令では特定の有害物質の使用を厳格に制限しています。鉛、水銀、カドミウム、六価クロムといった物質は原則禁止。例外として認められる場合でも、使用量は厳しく制限されています。これにより、車両の安全性や性能を維持しつつ、環境保護への配慮が徹底されるといえるでしょう。
また、部品や材料には識別可能なラベル表示が求められ、廃自動車の効率的な分別とリサイクルが可能となる仕組みが整えられています。
このように、設計から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体を視野に入れた取り組みが推進されています。
廃自動車の回収およびリサイクル体制の整備も明確に示されました。加盟国は、認可された解体施設を通じて廃自動車が環境に配慮した方法で処理されることを保証する必要があります。とくに、車両所有者に金銭的負担を軽減した回収制度が整備されていることで、利用者の参加を促進することが期待されています。処理工程では汚染物質の除去、部品の再利用、材料のリサイクルが体系的に行われ、廃棄物を資源へと変換する仕組みが要求されました。
さらに、数値目標の例として、2015年以降、廃自動車全体の85%以上をリサイクルし、95%以上を回収・再利用するという具体的な目標が設定されていました。
2023年の改正は、2019年に発表された脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」に基づく環境目標を達成するため、欧州ELV指令を現代の技術革新と市場の進展に合わせて更新するものです。とくに、再利用可能な材料や部品の使用を増やし、リサイクル効率を向上させることを目指しています。欧州ELV指令の改正は自動車製造者の責任をより明確にし、資源循環を支援する新たな規定を導入しました。
欧州ELV指令は自動車の設計段階から廃自動車までの全過程を通じて、環境への負荷を最小限に抑えることを目的としており、廃自動車の回収、処理、リサイクルに関する基本的な基準を定めています。特に、再利用、リサイクル、回収可能性についての目標が設けられていますが、2023年に「自動車設計の循環性要件及びELV管理に関する指令」として、より自動車産業の広範囲をカバーする厳しい規制へのシフトが行われました。
欧州ELV指令において、プラスチックに関する規制が強化されました。具体的には、2031年までに新車の生産に必要なプラスチックの25%以上に再生プラスチックを利用(うち廃自動車由来25%)することが定められました。廃自動車部品を自動車部品にリサイクルすることで自動車産業の循環性の強化を重視しています。
さらに、改正案では、バッテリーのリサイクルに関する新たな規制も組み込まれており、車両のバッテリーが容易に取り外せるように設計され、リサイクルや再利用を促進。この改正は、とくに電気自動車の普及に伴ったものと考えられます。EU全体での自動車市場の持続可能な自動車産業の実現に貢献することが期待されており、自動車の設計、製造、廃自動車の処理における環境負荷を減らし、自動車産業における循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に向けて重要なステップとなるでしょう。
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この目標と合わせ、製造者に拡大製造者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)が強化されました。部品のリサイクルを促進する車両設計の推進、廃自動車由来の再生材の増加・品質向上、関連事業者の廃自動車に係る公正なコスト負担配分も含まれています。車両のトレーサビリティ向上が図られ、製造における「ゆりかごから墓場まで」の把握・連携が求められるように。自動車の設計や使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階の責任が明確化され、資源の循環を促進することを目的としています。
欧州ELV指令は2000年に制定され、時代に合わせて何度か改正がされてきました。しかしながら、この指令はいまだ発展途上といえるでしょう。2023年の改正の際、一般社団法人日本自動車部品工業会(JAPIA)は、自動車産業における「CO₂排出量の削減」と「資源リサイクルによる価値化」という考え方には賛同しつつも、いくつかの懸念を示しています。リサイクルプラスチックの利用目標に関して、自動車部品の複雑な設計や厳しい品質要件により、多くの課題があるとしています。とくに使用期間が長い製品の劣化や、不純物混入による健康被害、規制対応の懸念を指摘。さらに、多くの部品でリサイクル技術が未確立であり、JAPIAは安全性や性能を確保するために、技術開発と時間が必要であると考えています。
EU域外の日本においても、EU圏への車両の輸出、部品製造においてサプライチェーンの一角として資源のリサイクル可能化に向けた対応が迫られることが予想されます。
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CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・COMMUNICATION FROM THE COMMISSION The European Green Deal. (2019, December 11). EUR-Lex. (2024年11月参照)
・使用済み自動車に関する日本自動車工業会の見解-EU 規則の改正 ELV 規制に関する日本自動車部品工業会の見解. (2023, December 1). 一般社団法人 日本自動車部品工業会. (2024年11月参照)