国際プラスチック条約とは – なぜ今必要とされているのか?条約の目的と背景をまとめて解説!

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国際プラスチック条約とは - なぜ今必要とされているのか?条約の目的と背景をまとめて解説!

国際プラスチック条約とは

国際プラスチック条約とは、2024年を目標に、国際的なプラスチック規制の枠組みを作ることを目指す条約のことです。2022年にケニア・ナイロビで開催された第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)で採択された決議「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」で各国政府が合意しました。

国際プラスチック条約の具体的な内容については、2022年後半~2024年末の間に5回に分けて開催されている、約170か国の国連加盟国、関係国際機関、NGO等から約2,500人が出席する政府間交渉委員会(INC)の中で議論が交わされています。2024年11月25日~同年12月1日には最後のINC5が大韓民国(韓国)・釜山にて開催される予定です。

国際プラスチック条約 企業連合とは

国連環境総会で決議が採択された後、エレン・マッカーサー財団とWWFの呼びかけで国際プラスチック条約 企業連合が発足しました。現在、プラスチックのバリューチェーン全体に関わる150以上の企業、金融機関、NGOが参加し、意見を表明しています。

併せて日本では、企業連合のビジョン・ステートメントに賛同し、「汚染の除去のみならず削減、循環、そして、予防において、国際的に調和した規制を導入することで世界規模での変容を促進するための、法的拘束力を持つ世界共通ルールと対策とを盛り込んだ、プラスチック汚染に関する国連条約を支持」(WWF 国際プラスチック条約 企業連合(日本)声明より抜粋)する国際プラスチック条約 企業連合(日本)が結成。以下の10社が立ち上げ企業として参画し、WWFジャパンが事務局を務めています。 

<国際プラスチック条約 企業連合(日本) 参画企業(五十音順) >

Uber Eats Japan 合同会社、株式会社エコリカ、キリンホールディングス株式会社、サラヤ株式会社、テラサイクルジャパン合同会社、日本コカ・コーラ株式会社、ネスレ日本株式会社、ユニ・チャーム株式会社、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社、株式会社ロッテ 

出典:国際プラスチック条約 企業連合(日本) 声明. (2023, November 1). WWFジャパン. (2024年7月参照) 

国際プラスチック条約に期待される内容とは?

第5回国連環境総会の決議内容から読み取れる、国際プラスチック条約に期待される内容としては大きく以下の5つがあります。

  • 法的拘束力による強制力
  • プラスチックの全ライフサイクルを規制
  • プラスチックによる人の健康への影響を防ぐ
  • プラスチックを製造・流通させる企業のプラスチック削減への積極的なコミットメント
  • 再利用・再製造・リサイクルできるプロダクトデザイン開発の推奨

それぞれ見ていきましょう。

法的拘束力による強制力

条約が締結されることで、今までの各国政府・企業の自主的取り組みとしてのプラスチック汚染対策とは異なり法的拘束力が発生し、野心的で強制力を持つ取り組みへと変わることが期待されます。また、合わせて5回開催されるINCでは、条約のどの項目に法的強制力を持たせるのか、または各自の自発的な取り組みを求めるのかが検討されることになっています。

プラスチックの全ライフサイクルを規制

決議では、プラスチックの材料調達から製造、廃棄までの一連のライフサイクルを条約の対象とすることが明記されました。材料調達過程では持続可能な生産を、製造過程ではプラスチック汚染に対処する新たな製品設計を、廃棄過程では廃プラスチックの廃棄物管理についてそれぞれ言及。さらに、プラスチックによる問題は海洋汚染にとどまらず、国境を越えた脅威であることに言及し、決議内で広範の規制を求めています。

プラスチックによる人の健康への影響を防ぐ

決議の中で認められたプラスチックによる問題の中には、汚染に伴う人間への健康被害や福祉へのリスクも含まれています。しかし、これに対し国際環境NGOグリーンピースの日本支部であるグリーンピースジャパンは、「石油化学製品や廃棄物処理場の周辺に住む人々やプラスチック汚染の影響を最も受けている人々については言及されず、優先的に取り組むことにはなっていません」とこれを批判。

加えて、プラスチックのライフサイクルの下流を担う回収・分別・リサイクルに携わる人々に与える経済的影響についても言及がなく、今後の条約交渉の中でより公正な移行の実現が期待されます。

プラスチックを製造・流通させる企業のプラスチック削減への積極的なコミットメント

決議内では、プラスチックを生産・流通させる民間企業の責任が重要であることが指摘され、解決に向けた積極的な取り組みを促しています。また、国際的な環境保全団体であるWWFジャパンは、一次プラスチックポリマー(バージンプラスチック)*について、これらの生産・消費を持続可能な水準まで国際的に削減するために法的拘束力を持つ世界共通のルールが必要であると主張し、日本政府に働きかけを行っています。 

*一次プラスチックポリマー(バージンプラスチック):石油化学原料で新たにつくったプラスチックのこと

再利用・再製造・リサイクルできるプロダクトデザイン開発の推奨

プラスチック削減を推進するとともに、持続可能かつ革新的なプロダクトデザインの研究開発推進も決議内で示されています。WWFジャパンは、削減・リユース・安全なリサイクルを可能とする製品設計・性能の国際的要求を条約文書に落とし込むことを同様に日本政府に求めています。

なぜ必要なのか?

国際プラスチック条約の締結が持つ意義について、ご理解いただけたのではないでしょうか。続いて、そもそもなぜプラスチックを規制する必要があるのか、廃プラスチックの影響ついて解説します。

プラスチック製品によって命を落とした生物は腐敗・分解されますが、プラスチックは自然界で分解されません。画像右上のように、たった一枚のビニール袋が何匹もの鳥たちを窒息させ、海に漂うプラスチック製の漁網が多くの海洋生物の命を絡めとっています。

米ジョージア大学の研究チームが2017年に米Science Advances誌に発表した論文によると、1950年から今までで世界中で廃棄物になったと考えられているプラスチック製品はおよそ63億トン。そのうち約79%にあたる49億トンもの廃プラスチックが埋め立てや投棄によって処分、12%にあたる8億トンは焼却処理により大量のCO₂を排出しています。

また、OECDの” Global Plastics Outlook Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options POLICY HIGHLIGHTS ”レポートによると、今までに世界で廃棄されたプラスチックのうち、材料として再生されているものは9%程度で、リサイクルも効果を発揮しているとは言えません。画像下段の中央の写真ように、先進国のプラスチックゴミがリサイクルを名目に途上国に輸出され、中には資源化できないものや有毒性のあるものが混入している場合もあるという事実もあり、リサイクルできずに放置されたプラスチックゴミは環境汚染や現地の人たちの健康被害の原因となっています。

世界のプラスチックごみ処理内訳
出典: Global Plastics Outlook Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options. (2022, February 22). OECD. を基に作成 

INC1~INC3の進捗

国際プラスチック条約がどのような意義を持ち、なぜ必要とされているかご理解いただけたのではないでしょうか。

続いて、その国際プラスチック条約の条約文書の交渉について、現在INCでどのようなことが実際に議論され、決定されているのでしょうか。2024年4月に終了した最新のINC4と、それ以前に開催されたINC1~INC3の2つに分けて解説します。

INC1

  • 各国および地域がステートメントを発表。
  • 条約の目的や目標について、多く人の健康と生物多様性及び環境を保護することを目的とした世界共通の目標設定の必要性を言及。
  • 内容等に関して、プラスチックの製造段階等への規制を求め、また各国の状況に応じた対策の重要性を主張するなど様々な意見を共有。

INC2

大きく2つの議題がありました。

  • 目的及び中心的義務

日本が主張するプラスチックの環境への流出の防止や人間の健康への悪影響の防止、目標年限を設定することに対して支持を表明する意見もあったが、議論はINC3に持ち越し。

  • 条約義務の実施手段

条約の義務として、一次プラスチックポリマーの生産制限や、問題のある避けうるプラスチック製品及び懸念のある化学物質やポリマーの使用の禁止、段階的禁止又は削減を求める意見がある一方で、日本を含む各国から再利用及びリサイクルの促進による対策の重要性について指摘。

また、各国の状況に応じた国別行動計画に基づく措置の必要性についても議論が継続。

条約義務の実施手段としては専用基金の設置、また既存基金を最大限に活用して最も支援を必要とする国への支援を行うべきという意見も。

INC3

INC2後に作成された条約のゼロ・ドラフト(原案)を基に、条約の目的及び年限目標や一次プラスチックポリマーの生産制限、懸念のある化学物質・ポリマー・問題のあるプラスチック製品の規制、国別行動計画の内容、新たな基金設置の有無を含む支援資金について議論。

結果として、INC4での条文案交渉のベースとなる、各国の提案が全て盛り込まれた条文案の改定版を作成。

INC4を終えて

INC3で作成された条文案の改定版を基に議論。

交渉の結果、条文案の整理・統合が進んだ分野もあった一方、追加的なオプションの提案がなされ、中には意見の集約には至らなかった分野も。2024年末までの作業完了に向けて、事務局がINC4の内容を考慮した条文案を作成し、INC5における交渉文書とすることが決定。

また、INC5までの会期間に

(1)懸念のある化学物質、製品設計等の基準など主要義務規定に係る技術的事項

(2)資金・技術支援等の実施手段に関して専門的・技術的な作業を進める

ことを合意。

国際プラスチック条約が法的拘束力を持つ野心的で強制力のあるものとなるか、もしくは依然各国・企業の自主的取り組みにとどまるかは2024年11月に韓国の釜山で開催されるINC5に持ち越されることに。

INC4の結果に関してWWFジャパンは、「リスクの高い製品・化学物質の禁止や段階的削減、拡大生産者責任、共通の製品設計要求、実行を担保するための財政パッケージなど主要な分野を含む条項のすり合わせに一定の進展が見られた」一方で、「条約にプラスチックの生産や消費を削減することを含められるかどうかは依然として不透明である」と評価。

また、2023年にCDP水セキュリティ質問書にプラスチックモジュールが導入され、時価総額25兆米ドルを超える上場企業を含む約3,000社がプラスチックに関する開示を行っています。

このうちプラスチック関連の活動に関連するリスクを認識している企業はわずか21%、70%の企業は、プラスチック関連の活動が環境と人間の健康に与える影響をまだマッピングしておらず、64%は、プラスチック製品の使用や廃棄物管理の実践など、プラスチック関連の影響を管理するための目標をまだ設定していません。

これらの調査結果はプラスチック危機への貢献に対する企業の認知程度を初めて明らかにし、国際プラスチック条約を進める根拠となります。CDPのサステナブル・ビジネス責任者であるネイサン・コールは「野心的なグローバル・プラスチック条約に合意することで、企業が必要とする環境を整えなければ」ならないと言及しており、CDPも国際プラスチック条約に賛同しているといえるでしょう。

まとめ

強制力のある、世界共通のルールとなりうる国際プラスチック条約。本コラムを通してその意義や内容、現在までの一連の流れについて把握いただけたのではないでしょうか。2024年11月には最後のINC5が韓国・釜山で開催されるため、今後の動向を見守るとともに、企業としても成立後の先を想定した対応を進めることをおすすめ致します。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

<出典>

海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する条約. 環境省. (2024年7月参照) 

プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際文書に向けて(仮訳). (2022, March 15). 環境省. (2024年7月参照) 

「プラスチック汚染対策に関する条約策定に向けた政府間交渉委員会第1回会合」の結果について. (2022, December 5). 環境省. (2024年7月参照) 

プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第2回政府間交渉委員会の結果概要. (2023, June 5). 環境省. (2024年7月参照) 

プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第3回政府間交渉委員会の結果概要. (2023, November 21).環境省. (2024年7月参照) 

プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第4回政府間交渉委員会の結果概要. (2024, April 30).経済産業省. (2024年7月参照) 

【WWF声明】INC-4では一定の進展があったが、多くの国が望む法的拘束力ある世界共通ルールに合意できず。日本政府には共通ルールへの明確な支持を改めて求める。. (2024, May 8).  WWFジャパン. (2024年7月参照) 

国際プラスチック条約 企業連合(日本) 声明. (2023, November 1). WWFジャパン. (2024年7月参照) 

New Data Shows Majority of Companies Are Overlooking Plastic-Related Risks. (2024, April 9). CDP. (2024年7月参照) 

Global Plastics Outlook Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options. (2022, February 22). OECD. (2024年7月参照) 

Plastic Pollution: Images of a Global Problem. (2018, May 25). BBC. (2024年7月参照) 

Production, Use, and Fate of All Plastics Ever Made. (2017, July 19). ScienceAdvances. (2024年7月参照) 

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