環境経営を考える上で耳にすることも多い、「FIT制度」や「FIP制度」、「再生可能エネルギー」といったワードたち。ただ「実際どのような制度なのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。今回のコラムでは、これらのトピックについて概要をかみ砕いて解説していきます。
FIT(フィット)制度とは、再エネ発電で発電した電気を、電力会社が一定期間一定の価格で買い取ることを国が約束する制度のこと。FITとは「Feed-in Tariff」を略した言葉で、日本語だと「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」と訳せます。この制度は、2012年7月に施行された「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」(再エネ特措法)によって導入されました。
FIT制度の目的は、再生可能エネルギー発電を行う事業者を増やし、再エネの導入を全国的に広めること。導入の背景には、日本の燃料資源の乏しさ故のエネルギー自給率の低さがあります。特に2011年の東日本大震災以降に化石燃料への依存度が増加。エネルギー自給率が低いと、国際情勢の影響を大きく受け電力の安定供給を危険に晒してしまう可能性があるため、低自給率の改善は近年解決必至の問題となっていました。
そこで、火力などほかの発電に比べて発電コストが高く、導入が進まない再生可能エネルギー発電を電力の固定価格買い取りによって普及するために、FIT制度が導入されたのです。
この制度では電力会社が買い取る際の費用の一部を、普段電気を利用している国民から賦課金という形で電気料金に上乗せして集金。国民から広く集めることで発電設備の高額な建設コストなども回収の見通しが立ちやすくなり、再エネ導入にかかる高いコストを支え、さらなる普及を後押しできるのです。
再生可能エネルギーとして買い取りの対象になるには、以下の条件を満たす必要があります。
これらすべての条件を満たす再生可能エネルギー発電によって生み出される電力は、その全量が買い取り対象となっています。しかし、住宅の屋根上に設置するような10kW未満の太陽光発電、ビル・工場の屋根上に設置するような10~50kWの太陽光発電の場合は、事業者自身で消費した後の余剰分のみが対象となります。
このような仕組みとなっているFIT制度ですが、実際にその効果はどのように表れているのか、データをもとに見ていきましょう。
下図の通り、2012年のFIT制度開始以降国内の再生エネルギー導入率は2011年度の0.4%から2020年度の7.9%へと大幅に増加し、普及面で大きな効果が見られています。また、再エネの普及に合わせて太陽光発電のコストも2014年を境に大幅に減少。2022年において世界水準と比較するといまだ高いものの、FIT制度導入後は半分以下の12.0円/kWhまで下がっています。
これらのデータから、FIT制度は再生可能エネルギーを国内に普及する施策として、その効果を発揮していると言えるでしょう。加えてエネルギー自給率の観点から見ても、FIT制度施行時の2012年と2022年を比べると6.7%から12.6%へと約2倍になっており、その効果を認めることができます。
ただFIT制度は再エネの普及に効果を発揮した一方で、いくつかの課題を抱えています。
FIT制度の大きな課題として、まず電気使用者全体に課される再エネ賦課金があります。賦課金は電気の使用量に応じて毎月の電気料に上乗せされるもので、毎年再エネ特措法で定められた算出方法に則って経済産業大臣が設定。この金額は全国一律になるように設定されてはいるものの年々増加傾向にあり、2022年度の賦課金単価は3.45円/kWh*と、国民の家計に少なからず影響を与えるものとなっています。
賦課金が課されるということは、再エネ(固定価格買取制度)が普及するほどその増加分の売電料の一部を国民が負担することを意味しており、実際に下図の通り、賦課金総額はFIT制度導入以降増加しています。再生エネルギーの導入を今以上に推進していくためには、このようなコストを可能な限りおさえていくことが望ましいと言えるでしょう。
*1ヶ月の電気使用量が400kWhの需要家モデルを採用した際の月額負担額は1,380円、年間で16,560円
また、再エネ発電事業者には電力需給のバランスをとるようなインセンティブが発生しないため、効率的な発電を実現するのが難しいことも課題の1つとなっています。
というのもFIT制度は、電気使用者のニーズや競争によって価格が決まる電力市場からは分断された制度。再エネ発電事業者はいつ発電しても同じ金額で買い取ってもらえるのです。そのため事業者は電力需給に関係なく、それぞれの発電方法にとってベストなタイミングで発電を行ってきました。
ただこのような行動は、電力需要のピーク時に十分な電力を供給できない、もしくは多量の電気を発電したにもかかわらず需要が追い付かない、などの機会的損失を招く可能性も。再生可能エネルギーを日本の主力電源として活用するには、需要と供給など市場の状況を踏まえつつ発電を行う仕組みづくりが必要であると言えるでしょう。
こうしたFIT制度による課題を解決するために、日本では2022年4月から新たに欧州でも取り入れられているFIP制度が導入されました。FIP(Feed-in Premium)制度は、一定価格で一定期間の買い取りを保証していたFIT制度とは異なり、売電価格に一定の「プレミアム(補助額)」を上乗せすることで価格を変動させ、電力市場へ統合していくことを目的としています。
FIT制度では、電力会社が再エネ電気を買い取る際の「1kWhあたりの単価(調達価格)」が定められていたのに対し、FIP制度では「基準価格(FIP価格)」と「参照価格」が定められています。ここで言う「参照価格」とは、市場での取引などによって再エネ発電事業者が期待できる収入分のこと。市場価格に連動して1ヶ月単位で見直されます。FIP制度では、電気を売った価格にこの「基準価格」と「参照価格」の差を加えた価格(=プレミアム)が上乗せされた合計分を、再エネ発電事業者が収入として受け取ることになります。
*プレミアムは参照価格の変動などによって変化するため、参照価格同様に1ヶ月ごとに更新
では、FIP制度導入のメリットとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
FIP制度には、再エネ投資のインセンティブ(プレミアムなど)が発電事業者に確保されていること、発電事業者の需給を意識した計画的発電によりさらなる収益が期待できること、の2つによって再エネの主力電源化が促進されるというメリットがあります。
特に計画的発電について、蓄電池などの設備投資や発電予測精度の向上を図ることで、再エネ発電に最適なタイミング(太陽光であれば晴れの日、風力であれば強風の日など)で発電し、需給のバランスを見て蓄電、あるいは売電の選択肢をとることが可能となります。
各主体がこのような行動をとり、自由かつ活発な市場競争を生み出していくことは、収益の増加と市場規模の拡大、そして究極的には国内での再生可能エネルギーの主力電源化に繋がっていくと言えるでしょう。
FIP制度のもう1つのメリットとして、アグリゲーション・ビジネスの発展が挙げられます。再エネ発電で使用する太陽光や風力などの1次エネルギーは、天候や自然現象の影響を大きく受けるため、必ずしもすべての発電事業者が計画通りの発電を行えるとは限りません。発電が計画通りにいかない場合、発電事業者は計画値同時同量制度に則りインバランスのペナルティを支払うことになります。
FIP制度のプレミアムによる補填があるとはいえ、ペナルティに加えて設備投資の初期費用や気象予報のコストをどのように回収していくかは、発電事業者にとって非常に重要な問題です。
コスト回収のために再エネ発電事業者が売電によって利益を上げるには、売電価格の高い時、つまり電力の需要量が供給量を上回る際に電気を売る必要があります。天候・自然環境によって発電量が左右される再エネ発電において、適切なタイミングで柔軟に電気を売るには蓄電池などの設備投資が欠かせません。
しかし、発電所で使用するような大容量の蓄電池は一般の発電事業者にとっては導入ハードルが高く、容易に取り入れることはできません。
このような状況のもと発展するのが、小規模な再エネ電源を束ねて蓄電池システムなどと組み合わせて需給管理を行い、市場取引を代行する“アグリゲーション・ビジネス”。このビジネスにより、取引の活性化と市場規模の拡大が期待されます。
2022年4月のFIP制度導入以後、太陽光や風力など電源の種別ごとに、以下の図のように一定の規模を基準として新規認定でFIP制度のみが認められています。また、新規認定でFIT制度が認められる対象についても、発電量によってはFIP制度を選択することが可能です。
2022年度と比較すると、新規認定でFIP認定のみを認める対象が拡大している*¹ため、今後についてもFIT制度からFIP制度への緩やかなシフトが想定されます。*²
*¹例として、太陽光発電に関して2022年度は1,000kW以上を対象に、2023年度には500kW以上に拡大
*²FIT制度の撤廃に関して、2024年1月現在経済産業省からの公表はありません
現在、再生可能エネルギーの発電事業はFIT制度からFIP制度への過渡期にあると言えます。適宜変化すると考えられる状況に臨機応変に対応し、より良い環境経営に繋げていくためにも、本コラムを通してFIT制度からFIP制度への流れ、仕組みについて今一度理解を深めていただけたら幸いです。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・よくあるご質問. 経済産業省 資源エネルギー庁.
・用語解説 第130回テーマ:FIP制度(Feed In Premium). (2022, January). 電力・エネルギー部門誌.
・FIT法改正で私たちの生活はどうなる?. (2017, August 8). 経済産業省 資源エネルギー庁.
・News Release 令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報). (2023, November 29). 経済産業省.
・再生可能エネルギー FIT・FIP制度ガイドブック 2022年度版. (2022, March). 経済産業省 資源エネルギー庁.