CORSIA(コルシア)とは、Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviationの略で、日本語では「国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム」を意味します。
2010年、ICAO(イカオ)と呼ばれる国際民間航空機関が、2020年以降の年間燃料効率2%向上や2020 年以降 CO₂ 排出量を増加制限といった短期目標を採択しました。また、ICAOは目標達成のために、2016年に市場メカニズムを活用した排出削減制度としてCORSIAを採択。2022年には国際航空分野で2050年までにCO₂の排出を実質ゼロにする長期目標を掲げることになりました。この長期目標を達成するためには、CORSIAへの取り組みが欠かせません。
なおCORSIAは、運用が開始された2021年から2035年まで、3つのフェーズに分けて実施される予定であり、現在は第1フェーズの最中。第1フェーズである2026年までは、参加対象国が自発的に参加するフェーズであり、第2フェーズにあたる2027年以降は、全加盟国が基本的に参加を義務付けられるというフェーズになります。
2024年現在、CORSIAには126ヵ国が参加。さらにモーリタニアとセントルシアの2ヵ国が、2025年1月1日からCORSIAに参加する意向を発表しており、参加国総数は128ヵ国となります。なお、国際線を取り扱う航空会社で、そのルートの出発国と帰着国がどちらもCORSIA参加国である場合、オフセット義務の対象となります。
欧米をはじめ、日本を含む主要国はほとんど参加しており、免除対象国には開発途上国や島国が該当します。一方、中国、ロシア、インド、ブラジルの4ヵ国は排出量が多く、大国であるにもかかわらずいまだ参加していない状況です。この4ヵ国で世界全体の国際航空におけるGHG排出量の2割にあたりますが、「自国はあくまで発展途上国である」という主張のもと、参加にはいたっていません。
次にCORSIAが設立された経緯についてみていきましょう。CORSIA設立の背景には、2010年に開催された第37回ICAO総会で決議された内容が関わっています。この総会では「グローバル削減目標」とこの目標達成に向けて「4つの対策」が決議されました。
■グローバル削減目標
①2050年までに平均2%の燃費効率改善
②2020年以降、GHG排出量を増加させないこと
■4つの対策
①新技術の導入(新型機材など)
②運航方式の改善
③代替燃料(SAF)の活用に向けた取り組み
④経済的手法の検討推進
ICAOが掲げている長期目標を達成するためには、①新技術の導入、②運航方式の改善、③代替燃料の活用という対策だけでは足りません。目標達成のためには、④経済的手法の検討推進に取り組んでいく必要があります。そのため、2013年に行われた第38回ICAO総会では、2020年からの世界的な経済的手法導入に向けた仕組みの構築、2016年に行われた第39回ICAO総会では、世界的な経済的手法の導入とその具体的な内容が決議されました。この経済的手法につけられた名称がCORSIAです。つまり、ICAOのグローバル目標達成のために他3つの対策で補えない部分を、経済的手法(クレジット活用によるオフセット)で埋め合わせるためにCORSIAは設立することとなったのです。
前述した「4つの対策」の3つ目に代替燃料の活用がありました。ここではこの代替燃料について詳しくみていきたいと思います。
まずここで述べられている代替燃料とはSAF(サフ)のことを指します。SAFとは、従来の化石燃料由来の航空燃料と比べて約60~80%のCO₂削減効果がある、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)のこと。原料はバイオエタノールや微細藻類、廃食油など、植物由来のものが多く、その原料である植物が育成中に光合成を行うことで大気中のCO₂を吸収します。そのため、航空機がCO₂を排出しても実質的な排出量がほぼなく、自然の循環を利用して、大気中のCO₂をほとんど増やすことなく航空機を利用できるという仕組みです。
前述のとおり、航空業界では2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標が設定されています。この目標を達成するためには、CO₂削減効果が高い次世代型燃料のSAFの利用拡大が必要不可欠です。
また2023年4月に、アメリカの企業5社がSustainable Aviation Buyers Alliance(SABA)を通じてSAF証書を大量に購入したことが話題になりました。SAF証書という新たな制度も出てきており、今世界中で注目を集めています。
SAFについてより詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧くださいませ。
>持続可能な航空燃料「SAF」とは?メリットや課題、日本や各国での取り組みを簡単解説!
先ほどご紹介したSAFですが、国際航空においてSAFによる削減効果を主張するには、CORSIA適格燃料(CEF)の認証を受けたSAFを利用しなければいけません。CEFの認証を取得するためには、持続可能性認証スキーム(SCS)である、ISCC(国際持続可能性カーボン認証)とRSB(持続可能なバイオ燃料のための円卓会議)のどちらかのスキームによって認証される必要があります。
CEF認証取得に向けたプロセスは、事業者の想定する原料の状況によって2つのパターンが想定されます。
① デフォルト値(*1)が登録されていない場合
② デフォルト値が登録されている場合
それぞれのパターンを詳しく見ていきましょう。
(*1)デフォルト値とは、ICAOの「CORSIA Default Life Cycle Emissions for CORSIA Eligible Fuels」にて規定されるSAFのGHG排出量のこと。
デフォルト値が登録されていない場合はまず航空局を通じて、FTG (*2) に新規デフォルト値の登録を提案します。そしてICAOドキュメントが改訂された後、CEF認証プロセスに移行するというフローです。このデフォルト値登録までの期間は、最低でも2~3年かかると見込まれています。
(*2)FTGとは、Fuels Task Groupの略称のこと。「燃料タスクグループ」とも呼ばれる。
一方、デフォルト値が登録されている場合は事業者が認証機関に依頼し、認証機関が事業者を審査、SCSによりCEF認証が承認されるというフローが必要です。そのため、CEF認証取得までの期間は4~6か月と見込まれています。なお監査を受けたい時期の3か月前に認証機関に連絡を取ることが推奨されています。
CEF認証を受ける際、ISCCとRSBという2つのスキームがあるとご紹介しましたが、どのような違いがあるのでしょうか。違いは3つあります。
この2つのスキームは持続可能性の要件が異なり、比較するとRSBの要件が多く細かいという特徴があります。
ISCCのGHG排出削減率が任意であるのに対し、RSBはGHG排出削減率が化石資源由来の燃料と比較し10%低減していなければいけません。
ISCCはバイオマス配合率について言及されていませんが、RSBはバイオマス配合率が25%以上でなければいけません。
RSBは持続可能性の要件が多く細かいだけでなく、GHG削減率やバイオマス配合率についても言及されており、ISCCと比べてみると承認申請をする上でハードルが高いといえるでしょう。
次に、2010年第37回ICAO総会で決議された4つ目の対策について見ていきましょう。
主要な対策である、①新技術の導入、②運航方法の改善、③代替燃料の活用を実施し終えた航空会社は、ICAOの方針に基づき、④経済的手法の検討推進に着手していきます。その際航空会社は、CORSIAによるオフセット義務を果たすため、クレジットの活用を検討しますが、ここで活用できるクレジットはCORSIA適格クレジットと呼ばれるCORSIAの審査をクリアしたクレジットのみです。
しかしパイロットフェーズの段階でのCORSIA適格クレジットは8種類、さらに第1フェーズである現在は2種類しか存在せず、認定された日本のクレジットもまだありません。認定されるためにはCORSIAの審査をクリアする必要があり、日本のクレジットとしては、J-クレジットが第1フェーズ中に認定されるため申請中という状況です。
今後、航空会社のさらなる削減努力が求められる中、削減義務を果たすためにCORSIA適格クレジットの確保がより一層重要になってくるといえるでしょう。
日本国内ではどのようにCORSIAへの取り組みが進んでいるのでしょうか?企業の取り組みを見ていきましょう。
全日本空輸株式会社は「2050年長期環境目標」と「2030年中期環境目標」を達成するために、下記4つの取り組みを順に進めています。
同社ではこれら4つの取り組みに対し、以前は異なる部署で対応を進めていましたが、2022年に脱炭素の戦略立案とグループ横断の展開を一貫して行う「GXチーム」を立ち上げることに。新しい流れの開拓を強みとしており、CORSIAが提唱するさまざまな脱炭素手法のなかでも「航空機の技術革新」と「SAFの活用」については、積極的に新たな手法への取り組みが進んでいます。
従来の機体より約20%燃費が良く、環境への負担が少ないボーイング787機を2011年に世界の航空会社で初めて導入しました。燃料使用量が減ることでGHG排出量削減にも貢献しています。
同社は10年以上前から試験導入を始めており、2012年に世界で初めてSAFを利用した太平洋横断デリバリーフライトを行い、2020年にはアジアの空港を出発する定期便として初めて羽田空港と成田空港でSAFを導入しました。また2021年に「SAF Flight Initiative」というプログラムをリリース。このプログラムでは、参加企業と協力し、産業横断的にSAFの利用を促進し、契約した企業がフライトサービスを利用した際にCO₂削減証書を受け取れます。このプログラムを通じて多くの企業が手軽にSAFの普及、そしてカーボンニュートラル達成へ貢献できる仕組みを導入しています。
日揮ホールディングス株式会社は、家庭や店舗などで発生する廃食用油を活用して国内資源を原料とするSAFで航空機を飛ばすため、「Fry to Fly」プロジェクトを実施しています。このプロジェクトには130の企業、自治体、団体などが参加しており、廃食用油の引き取りを行うだけでなく、廃食用油の市民回収を通じた消費者による脱炭素への直接的貢献といった取り組みを進めています。
今回のコラムではCORSIAの概要から設立された経緯、さらにはその具体的な取り組みについて取り上げさせていただきました。また、航空業界だけでなく、幅広い業界でSAFへの取り組みが進んでおり、J-クレジットもCORSIA適格クレジット認定に向けて準備が行われていることがわかりました。今後の動向にも注目していきましょう。
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【出典】
・CORSIA 適格燃料 登録・認証取得ガイド. 国土交通省. (2024, March). (参照2024.09.06)
・CORSIA適格燃料 登録・認証取得ガイド. 国土交通省. (2023, July). (参照2024.09.24)
・SAFとは何か?. 国土交通省. (2023, February). (参照2024.09.06)
・マスバランス方式に関する国内外の状況等. 環境省. (2023, June). (参照2024.09.24)
・カーボン・クレジット・レポートを踏まえた 政策動向. 経済産業省. (2024, March). (参照2024.09.06)
・第30回J-クレジット制度運営委員会資料. Jクレジット. (2023, April). (参照2024.09.06)
・2022-2023産業政策提言. 航空連合. (2022, October). (参照2024.09.06)
・CORSIA(国際⺠間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)について. 公益財団法人地球環境戦略研究機関. (2019). (参照2024.09.06)
・CORSIA Emissions Unit Eligibility Criteria. ICAO. (2019, March). (参照2024.09.24)
・CORSIA States for Chapter 3 State Pairs. ICAO. (参照2024.09.09)
・航空機の運航における取り組み. ANA. (参照2024.09.24)
・サステナビリティ の取り組み. ANA. (参照2024.09.24)
・脱炭素推進で切り開くエアラインの未来(日本)ANAに聞くGX時代のリーダーシップ. JETRO. (参照2024.09.24)
・廃食用油で空を飛ぶ!!全員参加型、できること無限のプロジェクト. 日揮ホールディングス株式会社. (参照2024.09.24)