近年、ヨーロッパを中心に「サーキュラーエコノミー」という経済のしくみが注目を集めています。日本でも環境省や経済産業省が中心となり、先進的に取り組んでいる国を参考にサーキュラーエコノミーへの移行に取り組んでいる状況です。
各業界から注目を集めているサーキュラーエコノミーについて、3Rとの違いや取り組み事例のご紹介、取り組むメリット、取り組まないことでどのような影響があるのか、わかりやすく解説いたします。
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、資源の循環を前提とする環境に負荷をかけない新しい経済システムのこと。廃棄物を減らす考えが基となっている従来のリユース・リデュース・リサイクル(3R)への取り組みに加え、廃棄物の発生抑制と新たな資源投入の最小化を同時に実現して新たな成長につなげる考え方です。大量生産・大量消費・大量廃棄が一方向に進んでいく従来のリニアエコノミーのように原材料を製品化し利用が終わったら廃棄するのではなく、新たな付加価値を生み出して再利用し、資源を循環させるシステムです。昨今、世界中の国や地域でサーキュラーエコノミーへの移行が進んでおり、新たなビジネスモデルが生まれてきています。
一見3Rと何がどう違うのかわからないサーキュラーエコノミーですが、違いはあるのでしょうか。実はサーキュラーエコノミーと3Rは目的(前提)が違います。
従来の3Rは、リデュース(ごみになるものを減らす)・リユース(繰り返し使う)・リサイクル(資源押して再生利用)という、廃棄物を減らすための取り組みとして知られています。一方サーキュラーエコノミーは、資源の循環が前提の経済システムです。つまりサーキュラーエコノミーは資源の投入量や消費量を抑えて新しい産業や雇用の創出まで含む経済システムであるため、3Rはサーキュラーエコノミーへの移行実現に向けた取り組みの一つとして捉えられるでしょう。
ではサーキュラーエコノミーが進んでいる背景とはいったい何なのでしょうか。理由は2つあると考えられます。
現在地球上では、大量生産・大量消費・大量廃棄によって発生した廃棄物による汚染や、猛暑日の増加、豪雨による土砂災害や水害といった気候変動による被害など、環境問題が日々深刻化している状況です。今後このような状況が続かないように、脱炭素化を目指して各国施策を実施しています。そんな中、資源の循環はもちろん、新しい産業や雇用の創出までも可能な新しい経済システムであるサーキュラーエコノミーがより注目を集めることとなったのです。今後脱炭素社会を目指していくうえで欠かせない取り組みだといえるでしょう。
皆さんご存じのとおり、日本は先進国の中でも資源の自給率が低いという弱みがあります。そういった国内状況の背景から、サーキュラーエコノミーへの移行が進んでいけば、国内での資源循環を確立することが可能に。そして世界から資源供給が途絶えた際も、資源枯渇リスクを低減することができます。
国内外で取り組みが進んでいるサーキュラーエコノミーですが、取り組んだ場合どのようなメリットがあるのでしょうか。欧州投資銀行(*1)によって挙げられている、サーキュラーエコノミーによって生み出される機会を基に、詳しく見ていきましょう。
(*1)欧州投資銀行とは、世界最大の国際金融機関であると同時に、気候変動対策に対する最大の資金提供者の一つ。
まずはコスト削減についてです。サーキュラーエコノミーに移行していくことで資源を循環するようになるため、資源に頼った商品供給の不確実性や、資源の価格変動のリスクを抑えることができます。また、分解のしやすい設計や再利用しやすい素材を使用することで、原材料から部品を製造するよりもコストが安い場合が多く、製造コストの削減も期待できます。たとえば、自動車部品の再製造は、新しい部品を生産するよりも30~50%コストを抑え、廃棄物も70%削減することが可能です。
次に新たな市場機会やビジネス機会の開拓についてです。資源が循環されることにより、自社製品やその素材の寿命が延び、顧客関係を強化するとともに新しいビジネスモデルを生み出すことができます。また、自社製品を生み出す過程で出てきた廃棄物の再利用や再資源化を自社で対応できない場合でも、これを他社に依頼することで共生循環型の関係を築くことが可能に。結果的に、依頼された側は新たな収入源を生み出すことができ、依頼側は廃棄物管理コストを回避することができます。
サーキュラーエコノミーに取り組むことでビジネスが大きく変わっていくことが予想されますが、このサーキュラーエコノミーに取り組まない場合は、どのようなリスクが発生してくるのでしょうか。
一つ目は資源制約リスクです。サーキュラーエコノミーに移行しないということは、依然として資源に依存している状況が続くといえます。特に金、銀、銅、鉛、スズなどの資源は2050年までの累積需要が埋蔵量を2倍超えているとされ、資源の枯渇や調達リスクが増えると予想されています。資源価格の変動リスクは切っても切り離せない問題となるでしょう。
次に環境制約リスクがあげられます。廃棄物の越境や処分について規制する、バーゼル条約と呼ばれる国際条約がありますが、廃棄物の越境を制限する国が増加しており、この国際条約の厳格化の動きが出てきています。そうなれば廃棄物を処理することが困難になってくることが予想できるでしょう。
最後は成長機会損失へのリスクがあげられます。サーキュラーエコノミーへの対応が遅れると、経済損失のリスクが高まります。日本は先進国の中でも自給率が低いことを先ほど言及しましたが、今後も資源の調達を輸入に依存する形になれば、資源価格高騰に加え国内物価の上昇は逃れられません。さらに、日本国内では2020年50兆円から、2030年80兆円、2050年120兆円の規模でサーキュラーエコノミーの市場拡大が見込まれています。対応が遅れた場合、成長機会を逃すだけでなく、廃棄物処理に関しても海外に依存しなければならない苦しい状況になる可能性があるでしょう。
では日本政府はサーキュラーエコノミーに対してどのような取り組みを実施しているのでしょうか。主な取り組みは2つあります。
2021年3月に環境省と日本経済団体連合会(経団連)はサーキュラーエコノミーの取り組み加速に向けた企業・大学・行政間による「循環型経済パートナーシップ(J4CE)」を発足させました。J4CEの目的は、サーキュラーエコノミーに取り組む様々な企業や団体の先頭に立ち、ネットワーク形成、官民の連携強化、日本におけるサーキュラーエコノミーの取り組みを促進していくことです。なお具体的な活動内容については下記のとおりです。
《J4CE活動内容》
企業、個人、自治体、政府が立場・場面を問わず、サーキュラーエコノミーを自然体で実践している社会を目指して活動を行っています。各年度の「注目事例集」を分野別に取り上げているため、自社でサーキュラーエコノミーをどのように実施していくか悩まれている方は必見です。
もう一つの取り組みは、地域循環モデルの創出についてです。今日本はサーキュラーエコノミーの実現において、市民生活の基盤となる自治体や都市は、重要な役割を担っているため、サーキュラーエコノミーを実施する自治体モデルの創出に力を入れています。欧州投資銀行は、新たな循環型都市の機能やサービス、ビジネスモデルを確立するのに十分なポテンシャルがあるため、具体的には下記内容に取り組む必要があると言及しています。
《循環型都市になるために取り組むべき内容》
また、自治体や都市レベルでのサーキュラーエコノミーへの取り組みはEUといった先進的な地域では広がりを見せているものの、日本においてはまだまだ取り組み事例が少ない状況。そのため地域循環モデルの創出を目的として調査も実施されており、現在、愛知県名古屋市や福岡県南筑後地域、山口県南部で「地域循環圏形成モデル事業」として社会実装されています。日本の自治体の取り組みとして、今後の動向にも注目が集まります。
取り組むメリットが大きいサーキュラーエコノミーですが、自社が取り組むイメージをまだつかめていないという方もいらっしゃるかと思います。イメージを固めるためにさまざまな企業の取り組みを見ていき、自社で取り組める内容を精査していくのもおすすめです。そこで今回は国内企業の取り組みを、一部ご紹介させていただきます。
アパレル業界からは株式会社ファーストリテイリングの取り組みをご紹介します。「RE.UNIQLO STUDIO」と呼ばれる、服のリメイクができるコーナーが一部の店舗に新しく導入されており、顧客の持ち込む商品に穴が空いていれば刺繍でリペアし、自分好みにリメイクすることも可能です。この活動は資源を有効に使い、環境への負荷を減らすだけではありません。一回買っただけで関係を終わりにせず、お客様と長い関係を作り上げることでお互いプラスになるビジネスをつくっていける活動として取り組みを進めています。
2021年8月にベルリンにスタジオを設立し、その後2022年1月にニューヨーク、同年3月にシンガポール、同年4月にはマレーシアと、世界各国に続々とスタジオを設立していきました。日本の企業が世界規模でサーキュラーエコノミーの輪を広げていく取り組みだといえるでしょう。
玩具メーカーからは株式会社バンダイナムコホールディングスの取り組みをご紹介します。同社では2021年4月より「ガンプラリサイクルプロジェクト」を実施しています。ガンダムシリーズのプラモデル「ガンプラ」を作成する際にランナーと呼ばれるプラモデル部品が取り付けられていたプラスチックの枠を、顧客であるファンに店舗まで持ち込んでもらうことで回収。バンダイナムコアミューズメントの対象店舗約200か所に専用ボックスが設置されており、2023年には約40トンのランナーを回収しました。それを粉砕して溶かし「エコプラ」というプラモデルに再び商品化しています。顧客であるファンをサーキュラーエコノミーの輪に加える取り組みだといえるでしょう。
電機メーカーからはパナソニックホールディングス株式会社の取り組みをご紹介します。同社は廃棄された家電製品からリサイクルした再生プラスチック材を40%使用する環境配慮モデルである「セパレート型コードレス掃除機」という商品によって、再生プラスチックの循環を構築しています。また、梱包材には発泡スチロールを使わず、外装箱の印刷面積やインク使用量も最小限に抑えたパッケージを採用。不要になった掃除機を無料で回収しリサイクルするサービスやこの製品の売り上げの一部を環境保護活動に寄付しています。まさに「つくるときも、買うときも、捨てるときも環境を考える掃除機」を通してサーキュラーエコノミーに取り組んでいる事例だといえるでしょう。
今回のコラムでは、サーキュラーエコノミーの概要や取り組むメリット、取り組まないことによるリスク、日本政府や日本企業の取り組みについて取り上げさせていただきました。今後市場拡大が見込まれ経済成長の要となってくるサーキュラーエコノミー。自社へのリスクを低減するためにも、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄というリニアエコノミーから抜け出し、サーキュラーエコノミーへの移行は必須だといえるでしょう。
「サーキュラーエコノミーに移行する以前に、自社の状況を把握できていない…」
このようなお悩みをお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ弊社までお声がけください。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
【出典】
・第2節 循環経済への移行. 環境省. (参照2024.10.30)
・「地域循環圏」の事例. 環境省. (参照2024.10.30)
・サーキュラーエコノミーに係る地域循環モデル創出に関する調査分析 調査報告書. (2024, March). 経済産業省. (参照2024.10.30)
・資源循環経済政策の現状と課題について. (2023, September). 経済産業省. (参照2024.10.30)
・循環型の事業活動の類型について. (2020, June). 経済産業省・環境省. (参照2024.10.30)
・サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環のリスクと機会について. (2020, July). 経済産業省・環境省. (参照2024.10.30)
・循環経済パートナーシップ(J4CE)について. J4CE. (参照2024.10.30)
・日本企業による循環経済への取組注目事例集. (2022, September). J4CE. (参照2024.10.30)
・欧州投資銀行の概略. (2022, June). 欧州投資銀行. (参照2024.10.30)
・3Rをはじめましょう. さいたま市HP. (参照2024.10.30)
・RE.UNIQLOスタジオ. UNIQLO HP. (参照2024.10.30)
・プラモデルを通じたサステナブル活動. バンダイナムコホールディングスHP. (参照2024.10.30)
・【知ってる?パナソニック】元日本代表が3分で解説!サーキュラーエコノミーの取り組み. パナソニックグループHP. (参照2024.10.30)