ISO 14068-1:2023 カーボンニュートラリティを実現するためのステップと事例について解説!

排出量算定・CFP
ISO 14068-1:2023 カーボンニュートラリティを実現するためのステップと事例について解説!

2024年1月にヤマト運輸株式会社が世界で初めて取得したことで話題となった、カーボンニュートラリティ(*1)のグローバル規格、ISO 14068-1:2023。弊社エスプールブルードットグリーンも、ISO 14068-1:2023取得にあたりご支援いたしました。

世界でもまだまだ取り組み事例が少ないISO 14068-1:2023について、その概要や取得方法、取得事例、弊社が支援した内容まで、わかりやすく解説いたします。

(*1) カーボンニュートラリティとは、単年度での排出量が実質ゼロの状態を指し、全量オフセットによって実現することも可能。一方、よく似た意味で使われることの多いネットゼロは、2050年などの長期目標で排出量削減、吸収、オフセットを通じて実質ゼロにする状態を指し、その大部分は削減によって実現される必要がある。つまり、短期的なカーボンニュートラルは「カーボンニュートラリティ」、長期的なカーボンニュートラルは「ネットゼロ」と区別できる。

そもそもISOとは

ISOとは、International Organization for Standardizationの略で、日本語では「国際標準化機構」のこと。製品やサービスの品質、安全性、環境保護などさまざまな面で国際的な共通基準を設け、世界中で同じレベルの製品やサービスを提供できるようにすることが目的です。主な活動内容はグローバル規格を制定・改定することで、制定された規格については「ISO規格」と呼ばれます。ISO規格の制定・改定は、日本を含む世界172か国(2024年10月31日時点)の参加国の投票により決定します。

なおISO規格は、下記2種類に大別することが可能です。

  • モノ規格…製品そのものが対象
  • マネジメントシステム規格…組織の活動を管理するためのしくみが対象

身近な例でいうと「モノ規格」には、非常口のマーク(ISO 7010)やカードのサイズ(ISO/IEC 7810)、ネジ(ISO 68)といったISO規格があげられます。一方「マネジメントシステム規格」には、組織の品質マネジメントシステム(ISO 9001)や環境マネジメントシステム(ISO 14001)といった例があげられ、その中にカーボンニュートラリティに関するマネジメントシステムであるISO 14068-1:2023も含まれています。

ISO規格の種類
出典:ISOの基礎知識. JQA. を基に弊社作成

ISO 14068-1:2023とは

ではマネジメントシステム規格の一つであるISO 14068-1:2023とは、具体的にどういった規格なのでしょうか。ISO 14068-1:2023は、2023年11月30日に発行されたカーボンニュートラリティに関する国際規格のことを指し、前身であるPAS2060が初版発行から13年の時を経てISO規格化したものです。カーボンニュートラリティへのプロセスを活用しながら、ネットゼロ(*2)移行に向け、ガイドする規格です。この規格はカーボンニュートラリティ宣言の正確性・透明性を高め、「曖昧なカーボンニュートラリティ」の排除を目的に策定されました。そのため、カーボンフットプリントの定量化や削減、オフセットを通じてカーボンニュートラリティを達成し実証するための原則と要件、ガイダンスが定められています。 

(*2)ネットゼロとは、温室効果ガス(GHG)排出量から吸収量を差し引いた合計がゼロとなることで、“正味ゼロ”とも呼ばれる。

ISO 14068原則について
出典:ISO 14068-1:2023. (2023, November). ISO. を基に弊社作成

ISO 14068-1:2023取得のメリット

ではこのISO 14068-1:2023を取得するメリットとは何なのでしょうか。メリットは3つあげられます。

カーボンニュートラリティ主張に対する信頼性向上

第三者から正確性を検証されるISO 14068-1:2023を取得することで、国際的に認められた基準に基づいてカーボンニュートラリティを達成していることが証明されます。そのため、グリーンウォッシュだと批判されるリスクが減り、ステークホルダーや投資家からの信頼を得やすくなるといえるでしょう。特にカーボンニュートラルは、実際のものよりも著しく優良であると示す優良誤認によって、グリーンウォッシュとなるケースが多いため、リスクを軽減できるというメリットは大きいといえます。

国際的な競争力向上

実は世界的に見ても、このISO 14068-1:2023の取得事例はほとんどありません。そのため今取得対応を実施することで、先進的事例として箔がつく取り組みとなり、他企業との差別化につながります。また、国際基準でのカーボンニュートラリティの証明となるので、世界中にビジネスチャンスを広げられるように。海外企業とのお取引がある場合はとくにメリットを感じやすいポイントなのではないでしょうか。

リスク管理とコンプライアンスの強化

近年、カーボンニュートラリティをはじめとした、脱炭素化に向けた規制が世界中で強化されてきています。そのような中、ISO 14068-1:2023を取得すれば、規制違反となるリスクを軽減し、将来的な法規制といった変化にも柔軟に対応ができます。

このように、この規格はグリーンウォッシュや規制といったリスクを回避するだけでなく、他企業との差別化からビジネスチャンスを広げる国際規格であることがわかってきました。カーボンニュートラリティに取り組んでいる組織にとって重要な取り組みだといえるでしょう。

申請までの流れ

では実際にISO14068-1:2023を取得するにはどのような手順を踏んでいけばよいのでしょうか。ISO 14068-1:2023の申請までには大きく3つの手順があります。

①GHG排出量可視化

カーボンニュートラリティを証明したい対象から生じるGHG排出量を、国際規格に基づき認められた手法を使って算定し、GHG削減目標や具体的な削減計画を立てて実行

②クレジット調達

削減に至らなかった残余排出量(*3)をカーボン・クレジット購入によってオフセット

③報告書の作成

(*3) 残余排出量とは、省エネや再エネ導入、エネルギー転換などの実施可能なすべてのGHG削減措置を実施した後に残るGHG排出量のこと。

申請までのプロセス

この手順を経て、第三者機関の審査に移行していきます。なお日本には、BSIグループジャパン株式会社(英国規格協会)という第三者機関があり、世界で初めて本規格を取得したヤマト運輸株式会社もこちらで審査を受けております。

ISO 14068-1:2023取得事例

ISO 14068-1:2023取得に至るまでの流れを確認しましたが、実際に取得した事例はあるのか、また、どのような組織が取得したのか詳しく見ていきましょう。

ヤマト運輸株式会社

2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)において、ヤマト運輸株式会社は、ISO 14068-1:2023に準拠したカーボンニュートラリティを世界で初めて達成しました。主力商品である「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」の宅配便3商品のGHG排出量削減施策を実行し、実行後に残った未削減の排出量に対して VCSのボランタリークレジットを活用し、オフセットを行いました。また、2050年までのカーボンニュートラリティの維持を約束しており、2050年に向けた、宅配便3商品のカーボンニュートラリティへの道筋を提示しています。

前述のとおり、弊社エスプールブルードットグリーンもこの取り組みに携わっています。弊社では「宅配便における排出量算定」「報告書作成のアドバイザリー」などご支援いたしました。

詳しくはこちらをご確認ください。

ヤマト運輸のISO 14068-1:2023に基づく第三者検証意見書取得における報告書作成などを、ブルードットグリーンが支援

2050年度に向けた宅配便3商品の
カーボンニュートラリティのロードマップ
出典:「カーボンニュートラリティの宣言」とは. ヤマト運輸株式会社. より引用

台湾証券取引所

2024年7月23日、台湾証券取引所(TWSE)は証券取引所として世界で初めて、ISO 14068-1:2023を取得したことを公表しました。TWSEは長年にわたり持続可能性の実践に取り組んでおり、2023年には「カーボンニュートラル・ロードマップ」を策定。台湾における2050年ネットゼロ転換目標への対応を行うようになりました。また短期目標では世界の気温上昇を1.5℃に抑制することを念頭に、GHG排出量を2022年の基準値から2030年までに37.8%削減し、最終目標としては2050年までに排出量をネットゼロにすることを掲げています。

台湾証券取引所 短期・最終目標について
出典:TWSE Becomes First Exchange to Receive ISO 14068-1 Carbon Neutrality Certificate. (2024, July). TWSE. を基に弊社作成

また2022年から2040年にかけて省エネ対策、再生可能エネルギー目標等を通じて排出量を削減し、カーボン・クレジットを活用して残余排出量のオフセットを実行し、年間カーボンニュートラリティを達成。さらに2040年から2050年には、引き続き残余排出量のオフセットを継続することで、ネットゼロ排出目標に対して責任をもって取り組む姿勢を示します。

証券取引所として世界で初めてISO 14068-1:2023を取得したことに加え、証券取引所がその国の上場企業を持続可能な発展へと促すための模範として先導している、先進的な事例として注目が集まっています。

台湾証券取引所 カーボンニュートラリティのロードマップ
出典:TWSE Becomes First Exchange to Receive ISO 14068-1 Carbon Neutrality Certificate. (2024, July). TWSE. を基に弊社作成

エスプールブルードットグリーンのサービス

先ほどヤマト運輸株式会社の取り組みを支援させていただいたとお伝えしましたが、「排出量算定」や「報告書作成のアドバイザリー」以外にも、「カーボン・クレジットの選定・調達」も対応することが可能です。弊社の支援メニューである「カーボンニュートラル認証取得支援」では、対象の排出量算定からクレジットの調達、申請書作成までを一貫して対応いたします。

エスプールブルードットグリーンの支援サービス内容

また、弊社エスプールブルードットグリーンの強みとしては下記3点があげられます。

①LCAエキスパート(カーボンフットプリント算定における専門人材)が在籍

 ⇒専門知識を活かしながらお悩みに寄り添った支援の提供が可能に

② 英国規格協会の日本現地法人「BSI」のACP(*4)に加盟

 ⇒求められることを理解したうえでの、報告書作成が可能に

③ 海外ネットワークを豊富に保有

こうした繋がりやノウハウの基、企業価値向上という目標達成に向けて一緒に伴走してまいります。

(*4)ACPとは、アソシエイト・コンサルタント・プログラムのこと。ISOといった規格認証の取得を目指す組織が適切な専門家のアドバイスを受けられるよう、BSIグループジャパン株式会社がコンサルタントと企業を結びつけることを目的としています。

エスプールブルードットグリーンの強み

「カーボンニュートラル認証取得支援」について、詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。

カーボンニュートラル認証取得支援(PAS 2060 ・ISO 14068)

まとめ

今回のコラムではISO 14068-1について、概要や申請の流れ、取り組み事例をご紹介いたしました。とはいえ、世界的に見ても取り組み事例はまだまだ少ない状況。国際基準によるカーボンニュートラリティの証明はとくに海外企業との取引がある場合、グリーンウォッシュを防ぎつつ他社との差別化がしやすいため、メリットに感じられる方も多いのではないでしょうか。

自社製品のカーボンニュートラリティ宣言をお考えの企業様や、カーボンニュートラリティを見据えたGHG排出量の算定でお悩みの企業様がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽に弊社までお問い合わせください。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

【出典】

ISOの基礎知識. JQA. (参照2024.11.22)

ISO: Global standards for trusted goods and services. ISO. (参照2024.11.22)

ISO 14068-1:2023. (2023, November). ISO. (参照2024.11.22)

PAS 2060 – カーボンニュートラル. BSI. (参照2024.11.22)

「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」について 国際規格ISO 14068-1:2023に準拠したカーボンニュートラリティを実現―気候変動に配慮した輸送サービスの提供を通じて、持続可能な社会の実現に貢献―. (2024, January). ヤマト運輸株式会社. (参照2024.11.22)

CARBON NEUTRAL DELIVERY. ヤマト運輸株式会社. (参照2024.11.22)

検証意見. (2024, January). ヤマト運輸株式会社. (参照2024.11.22)

TWSE Becomes First Exchange to Receive ISO 14068-1 Carbon Neutrality Certificate. (2024, July). TWSE. (参照2024.11.22)

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