しばしば耳にする「温対法」。対応を考えていくうえで、そもそも「温対法」とは? 「省エネ法」との違いは? 排出係数って何? などの疑問を抱える方も多いのではないでしょうか。本コラムでは、このような疑問に答えつつ、あわせて温対法対応の際に必要となる「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(SHK制度)の令和6年度報告以降の変更点についても解説いたします。
「温対法」は、正式名称を「地球温暖化対策の推進に関する法律」と言い、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に対し、温室効果ガス排出量の算定と国への報告を義務付けており、さらに国が報告されたデータを集計・公表することを定めた法律のことです。
COP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)での京都議定書の採択を背景として、「地球温暖化対策の推進」および「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保」を目的に1998年に制定されました。
同法は、2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念に掲げており、主な制度として「地球温暖化対策計画の策定」、「地球温暖化対策推進本部の設置」、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度」などを規定しています。
このうちSHK制度は、温室効果ガス排出者の自主的取り組みのための基盤確立、国民・事業者全般の自主的取り組みの促進を目的に2005年の温対法改正によって導入されました。
よく温対法と混同されるものとして「省エネ法」があります。「省エネ法」は、その正式名称を「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」と言い、一定規模以上の事業者にエネルギーの使用状況等についての定期的な報告を義務付け、省エネや非化石転換等に関する取り組みの見直しや計画の策定等を促す法律のことを指します。
温対法と省エネ法がそれぞれ規定する内容を比較してみると、その対象者に一部共通する部分があるものの、対象物質や定める義務はそれぞれの目的に沿って異なっていることが分かります。
温対法が1998年のCOP3における京都議定書の採択を起源としているのに対して、省エネ法は1973年・1979年のオイルショックを契機としてエネルギーを効率的に利用していくことを目的に制定されており、このようなプロセスの違いから2つの法律の違いを認めることができます。
また、両法とも罰則が規定されていますが、温対法が虚偽、未提出に最大で20万円の過料を定めているのに対して、省エネ法は情報漏洩等の違反に最大1年以下の懲役または100万円以下の罰金、管理人等の不選任に100万円以下の罰金を定めており、その程度の差にも注意が必要です。
では、温対法で報告が必要となる温室効果ガス排出量は、実際どのように算定すれば良いのでしょうか?
温室効果ガス排出量には、「Scope1」「Scope2」「Scope3」という3つの分類が存在します。これらはGHG排出量の算定・報告の国際的な基準である「GHGプロトコル」によって規定されており、Scope1,2は企業の(直接的・間接的な)排出量を、Scope3はそれ以外のサプライチェーンの上流、下流をカバー。このうち温対法では、Scope1,2の報告が求められています。
これらの排出量は基本的に、事業者の活動規模に関する量「活動量」に、活動量あたりのCO₂排出量「排出係数」を掛け合わせて求めることができます。この時用いられる「排出係数」は、基本的には既存のデータベースから選択して使用することが多く、環境省が温対法に基づいて公開しているSHK制度における排出係数もその1つとなっています。
上図は排出量算定例として、A社の都市ガス利用を取り上げたものです。SHK制度の排出係数は、主に温対法で報告が必要となるScope1,2の算定に用いられるため、後述する令和6年度報告以降の同制度の変更点について留意が必要です。
SHK制度で定められている排出係数は、物質の使用量単位当たりに関連する特定の温室効果ガスの排出量を定めたものです。
たとえば、廃棄物の燃料使用1tあたりに紐づけられるCO₂排出量の単位はtCO₂/tといった具合に、その表記は基準となる単位、排出される温室効果ガスの種類(メタン、一酸化窒素など)によって異なります。
また、一般的にCO₂排出係数と言われる排出係数は電気事業者の基礎排出係数と調整後排出係数を指すもの。これらは電気事業者ごとに設けられている係数で、毎年環境大臣・経済産業大臣によって公開されており、SHK制度の温室効果ガス排出量算定の際にはそれぞれの係数を用いて使用電力から別々の排出量を算出することが求められています。
両係数の算出方法は上記の通りです。基礎排出係数が電力事業者の発電量1kWhあたりに排出されるCO₂量を求めたシンプルなものであるのに対して、調整後排出量はFIT制度による再生可能エネルギーの固定価格買い取りやその他排出量削減策の導入を加味した、より正確な排出量となっています。
このように排出係数や対象活動が詳細に定められているSHK制度について、2023年12月12日に環境省は全面的な見直しを発表。令和6年度から、新たな算定対象活動及び排出係数、報告方法のもと報告が必要になります。ここでは主な4つの変更点について解説いたします。
まず算定対象活動・排出係数・地球温暖化係数の3つについて、算定対象活動の変更、既存の算定対象活動の排出係数区分の見直しや数値の更新、地球温暖化係数(GWP)の更新が行われました。
変更のあった算定対象活動について、新たに算定対象に追加された活動は赤字、排出係数の区分を見直した活動は青字、数値のみを変更した活動は緑字、削除された活動は取り消し線で下図に記載されています。
排出係数について、環境省のウェブサイトで公開されている一覧から、燃料の使用に関する排出係数を以下に抜粋して記載いたします。下図の変更点で分かりやすいのが、赤枠で囲っているガソリンです。ガソリンは今回の変更により名称が「揮発油」に変わり、数値が微減しています。
<変更前>
<変更後>
この新しい排出係数について、SHK制度上では新しい排出係数での算定が求められますが、Scope1に関しては基準年の排出係数をそのまま流用して算定しても問題ありません。
また地球温暖化係数の変更点については、以下の通り変更されます。地球温暖化係数とは、CO₂を基準にしてほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるかを表した数字です。
令和4年の省エネ法改正で、廃棄物の燃料使用または廃棄物燃料の使用により発生する二酸化炭素がエネルギー起源CO₂に位置付けられました。これを受け令和6年度からは、報告義務を負う事業者の関連報告書の様式に「廃棄物の原燃料使用に伴うエネルギー起源CO₂」欄が新設されます。
これまで証書は、熱・電力を混合して使用することが可能でした。しかし、令和6年度からはそれぞれで上限が設定されることに。
具体的には、調整後温室効果ガス排出量の調整において特定排出者が購入した証書による国内認証排出削減量の控除を行う際、
電力に係る証書(グリーン電力証書):他人から供給された電気の使用に伴う二酸化炭素排出量
熱に係る証書(グリーン熱証書):他人から供給された熱の使用に伴う二酸化排出量
といった具合に上限が設定されます。
都市ガス・熱利用に関して、令和6年度からは電気事業者と同様にガス事業者及び熱供給事業者の事業者別係数(基礎排出係数・調整後排出係数)が導入されます。*
これにより、事業者別の係数が公表されている都市ガス及び熱を利用する際には、電気利用の排出量算定と同じように公表された事業者別係数に基づいて排出量を計算することが必須となりました。この変更に伴い、報告書にも算定に用いた係数を記載する項目が増えるため、算定・報告の際には注意が必要です。
*2024年2月現在、都市ガス及び熱事業者の事業者別係数一覧は未公開
上述したように令和6年度報告以降、グリーン電力・熱証書に控除の上限が設定されましたが、排出量削減に利用できるクレジットは他にもあります。
J-クレジットやJCMクレジットなどは、特定の控除対象のみに使用できるグリーン電力・熱証明書とは異なり、排出量全体を対象に控除を行うことができます。自社内でクレジットを発行することはかなりハードルが高く、グリーン電力・熱証書の上限が設定されたことから、今後はクレジット購入等を通して自社の調整後排出量(及び調整後排出係数)の削減に取り組むことが多くなるのではないかと考えられます。
SHK制度の改定は、令和6年4月1日から施行され令和6年度報告(令和5年度実績の報告)から適用されます。今回変更された排出係数一覧は、温対法で報告が求められているScope1,2の算定に関わってくることから、現在報告義務対象となっている企業はもちろん、今はまだ対象となっていない企業も、自社で作成した排出量算定マニュアルの変更等々について検討が必要になってくるかと思います。本コラムが、社内での見直しのきっかけとなれば幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
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