【初心者向け】EPD(環境製品宣言)を徹底解説!

排出量算定・CFP
【初心者向け】EPD(環境製品宣言)を徹底解説!

昨今、「ESG」というフレーズはもはや当たり前に聞くようになりました。環境、社会、ガバナンスの3つをまとめたものですが、今回は環境の部分に焦点をあてていきます。

企業は、自社の活動だけでなく、原材料の生産や製品の廃棄など、関連する活動を含めると環境に大きな影響を与えていると言えるでしょう。そのため、企業は環境問題に対して責任を課せられており、近年では「情報開示」が一つのトレンドとなっています。

TCFDやCDPなど、企業活動全体の情報開示は既に多くの企業で対応されていますが、実は「製品・サービス」単位でも情報開示ができることはご存知でしょうか。

本コラムでは、製品・サービス単位でできる情報開示の枠組みであるEPDについてわかりやすく解説していきます。ぜひ最後までご覧くださいませ!

~本コラムを最後まで読むと解決できること~

✓EPDが何なのか

✓なぜEPDを取得するといいのか

✓EPD取得のためには何から取り組めばいいのか

EPD(環境製品宣言)とは

EPDとは、Environmental Product Declarationの略称であり、日本語では環境製品宣言と呼ばれています。

いち製品・サービスのライフサイクル全体の環境情報を定量的に算出し、第三者検証により透明性と信頼性高く見える化する仕組みのことを指します。ライフサイクルとは一言でいえば製品・サービスをつくるための原材料の調達から廃棄・リサイクルに至るまでの過程です。

ライフサイクル

また、ライフサイクル全体における環境情報を定量的に算出する手法はLCA(ライフサイクルアセスメント)といいます。ここでの環境情報というのは地球温暖化をはじめとして、酸性化や有害化学物質など、大気・水域に与える影響も含めた総合的な情報を指しているのが特徴です。

EPDは、国際規格であるISO 14025に準拠して世界各国の運営機関が管理・運営をしています。日本では、一般社団法人サステナブル経営推進機構(以下、SuMPO|読み:さんぽ)が管理・運営をしており、SuMPO EPDとして知られています。

ちなみに、2024年までは「エコリーフ」として認知されていましたが、名称が変更されました。

そもそもISOとは

EPDはISO 14025に準拠している、と説明しましたが、「ISOって何…?」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ISOとは、非政府組織であるInternational Organization for Standardizationの略称で、日本語では国際標準化機構と呼ばれています。ISOが制定した規格(ISO規格)は、国際的に「これをスタンダードとします」という基準として扱われるため、取引や考え方の指標になるのです。

ISO規格には、大きく分けて2つの規格があります。「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」です。今回は詳細な説明を割愛しますが、本コラムで登場するISO規格に関しては「マネジメントシステム規格」とご認識ください。

ISOについて詳しく知りたい方はこちら 

>>一般社団法人 日本品質保証機構|ISOの基礎知識 

EPDの対象製品

では、EPDはどのような製品・サービスに適用できるのでしょうか。

なんと、あらゆる製品・サービスが対象です。種類・形態・製造拠点・発送先問わず世界中のどんな事業者もEPDを使うことができます。

これはもちろんSuMPO EPDにおいても同様です。

EPDの特徴

なんとなくEPDが「(あらゆる)製品・サービス単位でライフサイクル全体の環境情報を開示できるもの」とおわかりいただけたのではないでしょうか。

ここからは、EPDの特徴や取得するメリットについて解説していきます。

EPDには大きく分けて以下の4つの特徴があります。

  • LCAの手法を用いた評価
  • PCR(製品共通算定ルール)
  • 第三者検証の実施
  • 情報開示によるコミュニケーション

それぞれ見ていきましょう。

LCAの手法を用いた評価

これまでに説明してきた通り、EPDはLCAの手法を用いて環境情報の定量的な評価を実施しています。

LCAにもまたISO規格が存在し、EPDでは以下の2つのISO規格に基づいたLCAの手法を使っています。

ISO 14040,14044

ちなみに、LCA手法に基づいて同様に評価するものとしてCFP(カーボンフットプリント)を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。

EPDとCFPは何が違うの?と思われるかもしれませんが、結論、基本的に評価・算定方法は同じです。ただし大きな違いとして、 CFPは温室効果ガス排出量だけを評価するものであるのに対し、EPDは、大気や水域等への影響や資源循環に関する情報等、製品の環境影響を多角的に評価する仕組みです。また、EPDでも気候変動への影響(温室効果ガス排出量)はもちろん評価対象に含まれ、EPDで評価した情報の一部を切り出すことでCFPとして活用できます。

PCR(製品共通算定ルール)

EPDはPCR(Product Category Rule)と呼ばれる製品共通算定ルールに基づいて算定・検証および情報開示がされています。

PCRとは、製品の種別ごとに用意された算定のルールです。

例として、腕時計とステンレス管(液体を通すパイプ)、ハム、ソーセージで考えてみましょう。

これらの商品はそれぞれ異なるプロセスを経て製造されていて、算定の単位も構成要素も全く異なります。SuMPO EPDに登録されているPCRを例に取り上げて見てみましょう。腕時計の場合、1個単位で本体や付属品、電池等が対象となります。しかし、ステンレス管の場合はステンレス製品1t単位で本体や輸送用資材が対象となる、といったように、製品ごとに異なる特徴を持っているのです。

そのため、製品の特性に応じてルールを詳細に設定することでサプライチェーンでの環境データの一貫性を持たせることができ、製品間の比較可能性を高めることにつながり、コミュニケーションにおける理解がしやすくなるといった特徴があります。

一方で、ハムとソーセージといったような類似製品の中には、製品種別が同じものもあります。もし対象とする製品種別の定義が合致していた場合、同じPCRを用いて算定が可能です。

PCR

なお、PCRはISO 14025およびISO/TS 14027(*)に基づいて策定されています。

また、「ハム・ソーセージ」などの細かい粒度で策定されるPCRもあれば、「加工食品及び飲料製品」のように、幅広い製品を網羅する汎用的なPCRも存在し、その製品群に当てはまる全ての製品がそのPCRを用いてEPDを取得できます。より細かい範囲で詳細なルールを策定したい場合には、新たなPCR策定も可能です。

(*) ISO 14025、 ISO/TS 14027は以下の通り。

ISO 14025,14027

第三者検証の実施

EPDによって公開される環境情報は、第三者であるLCAの専門家による検証をクリアしたものになります。

前述のISO 14040、ISO 14044に準拠したLCA手法を用い、PCRに沿って算定を行った内容に対して、検証を実施することで、信頼性の高い情報開示を行うことが可能となります。

情報開示によるコミュニケーション

算定を終えてEPDプログラムによる検証に合格すると、ISO 14025に準拠してEPDプログラムのWebサイト上にLCAの算定結果が公開されます。日本の場合は、SuMPO EPDのWebサイト上で公開中のEPDを検索および閲覧することが可能です。 

定量的な算定結果だけではなく、第三者検証の実施者情報や算定結果の解釈、算定対象の範囲など定性的な情報も公開されています。 

定量的な数値データだけでなく、定性的な情報もまとめることでEPDを見る人が正しい理解ができ、環境情報のコミュニケーションが円滑になるのです。 

また、秘匿情報に関してはきちんと守ることができるため、公開する側も必要以上の情報が流出する心配は不要です。 

情報開示によるコミュニケーション

EPD取得のメリット

EPDを取得することによって製品・サービス単位の環境情報開示ができることは理解していただけたと思います。ただ、製品単位で算定をするのは手間に見合わないのではないか…と思われる方もいるでしょう。そもそもなぜEPDの取得が要求されているのでしょうか。

前提として、EPDの取得が要求されている背景として、近年環境問題に対して社会全体の関心が高まっていることがあげられます。そのため、消費者、投資家、取引先といった様々なステークホルダーがEPDおよびCFPの有無を判断基準としていたり、業界によっては取得を要請しているのです。

EPD取得のメリット
出典:「サプライチェーン全体でのカーボンフットプリントの算定・検証等に関する背景と課題」経済産業省を基に弊社作成

つまり、EPDを取得することは製品・サービス単位ではあるものの企業の競争力を高めることに繋がります。

また、国際的に用いられている認証制度でEPDの活用が進んでいるというのも、EPDを取得するメリットと言えるでしょう。

建築物の環境認証制度であるLEED認証では、ライフサイクルの考えが導入されています。5つある認証システムのうち、BD+C、ID+Cにある「Materials and Resources 」の中に「 Environmental Product Declarations」という項目があり、環境情報の明示が加点対象となっています。

そのほか、電子・電気製品の環境認証制度であるEPEATでもLCA関連の項目が含まれています。

こちらはアメリカの制度なのですが、大統領令によって「政府が購入する電子製品の95%以上がEPEAT適合品でないといけない」と定められています。そのため、日本の企業が電子・電気製品をアメリカに輸出する時は、EPDを含めてEPEATに対応することで、市場競争力の強化を図ることができるでしょう。

EPEAT

EPD取得の流れ

EPDの取得をしたい!となった場合、どうやって取得することができるのでしょうか。 

EPD取得までのおおまかな流れは画像の通りです。 

より詳細な流れが知りたい方は、SuMPO環境ラベルプログラム EPD加盟方法 をご覧ください。 

注意点としては、PCRがない場合には、新しく策定してからでないとEPDの申請ができないことです。PCRがあるかどうかは、SuMPO環境ラベルプログラム PCR検索 から調べられます。

EPD取得の流れ
出典:「EPD加盟方法」 SuMPO環境ラベルプログラムを基に弊社作成 

日本国内におけるEPD取得事例 

これまで述べてきた通り、国内でのEPD取得≒SuMPO EPDの取得です。厳密には例外もあるのですが、日本を拠点とするEPDプログラムは2002年から続くSuMPO EPD (旧エコリーフ) のみであり、ほとんどの場合はSuMPO EPDと認識いただいて問題ありません。

SuMPO EPDの事例は、SuMPO環境ラベルプログラム 「EPD検索」から調べられます。 

今回はその中からピックアップしてご紹介。 

EPDの事例

皆さんに馴染み深い食品や家具をはじめ、業務用の機器やポスターなどがあります。

また、工法といったサービスがEPDを取得している点に注目です。

何から取り組むべき?

ここまで長々と説明してきましたが、「結局何から取り組めばよいのかよくわからない…」という方もいるでしょう。

そんな皆さんのために、簡単なフローチャートを作成しましたので、現在地がどこなのか、今何をすればいいのかをご確認くださいませ!

EPDフローチャート

日本ではSuMPO EPD (エコリーフ) が唯一のEPDプログラムであり、EPD取得の際にはSuMPO EPDプログラム事務局への申請が必要になります。

製品・サービスごとの検証方法であるがゆえに、自社のみで対応するのは難しいこともあるでしょう。PCRがない場合は新規策定に時間がかかることもあります。

エスプールブルードットグリーンでは、SuMPO EPDの取得支援を実施しておりますので、

「今何をすべきかわからない…」

「現在の立ち位置は分かったが実際に何をすればいいのか知りたい」

といったお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください!

まとめ

本コラムでは、EPDの概要を理解していただけるように解説してまいりました。皆さんに「なぜEPDを取得する必要があるのか」「EPDを取得するとどんなメリットがあるのか」「EPD取得のために何から取り組めばよいのか」などが伝わり、EPDがもっと普及していくことを期待しています。

エスプールブルードットグリーンでは、SuMPO EPDの取得支援や、EPDにも関連するLCA/CFPの算定支援を実施しております。お困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談くださいませ。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

【出典】

ISO 14025:2006 Environmental Labels and Declarations — Type III Environmental Declarations — Principles and Procedures. (2006, August). ISO – International Organization for Standardization. (2024年9月参照) 

ISO/TS 14027:2017 Environmental Labels and Declarations — Development of Product Category Rules. (2017, April). ISO – International Organization for Standardization. (2024年9月参照) 

ISO 14040:2006 Environmental Management — Life Cycle Assessment — Principles and Framework. (2006, July). ISO – International Organization for Standardization. (2024年7月参照) 

ISO 14044:2006 Environmental Management — Life Cycle Assessment — Requirements and Guidelines. (2006, July). ISO – International Organization for Standardization. (2024年7月参照) 

「参考資料2 「見える化」に関する国外の動向(詳細版)」環境省(2024年7月参照) 

「サプライチェーン全体でのカーボンフットプリントの算定・検証等に関する背景と課題」経済産業省(2024年7月参照) 

「EPDについて」 SuMPO環境ラベルプログラム(2024年7月参照) 

「SuMPO環境ラベルプログラムとは」 SuMPO環境ラベルプログラム(2024年7月参照) 

「FAQ / お問い合わせ」 SuMPO環境ラベルプログラム(2024年7月参照) 

「PCRとは」 SuMPO環境ラベルプログラム(2024年7月参照) 

「関連制度」 SuMPO環境ラベルプログラム(2024年7月参照) 

「EPD加盟方法」 SuMPO環境ラベルプログラム(2024年7月参照) 

「LEED v4 BD+C Rating System – Japanese」 USGBC (2024年7月参照) 

「LEED v4 ID+C Rating System – Japanese」 USGBC (2024年7月参照) 

LEED v4.1 BUILDING DESIGN AND CONSTRUCTION Getting Started Guide for Bata Participants. (2024, July). USGBC. (2024年8月参照) 

キーワード

SCROLL