企業の有価証券報告書や統合報告書、CDPやTCFDなどといった公開情報をもとに、ESGスコアがつけられるFTSE。知らぬ間に自社のESGスコアづけがされていることもあり、その実態についてご存じない方もいらっしゃるのではないのでしょうか。本記事では、FTSEが生まれた背景やスコア評価の仕組み、そしてスコアをあげる取り組みについて紹介していきます。
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FTSEインターナショナル(以下FTSEと表記)は、イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)とロンドン証券取引所(LSE)が共同出資をして設立した、株価指数(インデックス)の開発や算出、管理や金融データの提供サービスを行う企業です(現在はロンドン証券取引所の100%子会社)。
FTSEの事業ブランドであるFTSE Russell(フッツィー ラッセル)にて、様々な資産クラスの株価指数の算定や運用のほか、金融データや研究・分析サービスを提供しており、世界中の機関投資家の投資活動に利用されています。
特にESG投資の領域において、企業のESGパフォーマンスを反映した独自のESG指数が広く用いられています。このESG指数の選定については、企業のESGに関する取り組みをスコア付けした上で、一定の基準を満たした企業を構成銘柄として指数に組み入れるという方式になっています。2023年8月末時点で先進国及び新興国市場の約7200社、日本では約1400社がESGの評価対象となっていることからも、FTSEは世界的なESG評価機関の1つとして知られています。
FTSE ESG指数が生まれた背景には、グローバルでのESG投資の拡大が関係しています。このESGという言葉およびESG投資の拡大は、2006年に国連が機関投資家に対し、ESG要素を投資プロセスに組み込むことを定めた「責任投資原則(以下PRIと表記)」を提唱したことがきっかけとされています。
2015年には、「世界最大の機関投資家」とされる日本のGPIF(年金積立管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことで、さらに注目をされるようになりました。現在、PRIへの署名機関数は5300を超え、その運用資産額は121兆ドルに達しているなど拡大を続けています。
しかし、企業の情報開示がまだまだ不十分であるなど、様々な課題も抱えています。このような背景からFTSEをはじめとする企業のESGデータを収集・スコア付けを行うESG評価機関の重要性が高まっています。
図1.ESG評価機関がESG投資中での立ち位置
出所:各評価機関の情報をもとにBDG作成
FTSEは、ESG指数の1つであるFTSE4Good Index Seriesを2001年から提供して以来、20年以上にわたって企業のESG情報を扱うとともに、企業の公開情報のみを評価の対象にするなど、その信頼性と透明性の高さから注目を集めています。また、ESG指数の基盤となっているESGスコア(FTSE Russell ESG Score)においても、顧客や機関投資家にとって有用性のあるツールを提供する機関であるとされています。
大規模な資産を保有する資金運用会社や持続可能な投資活動が必要となる年金などの運用機関にとって、ESG指数は効率的かつ適切な投資に役に立つものとなります。例えば、年金を運用するGPIFは、2022年度末時点で9つのESG指数を投資先として選定しており、これらのESG指数に関連する運用資産額は合計で約12.5兆円となっています。
その中で、FTSEへの投資額は約2兆320億円となっています。したがって、ESG指数に組み込まれるということは、機関投資家だけではなく、資金調達が必要となる企業側にとっても、自社のESG課題の解決への後押しに加え、スムーズな資金調達につながるといったメリットがあります。
図2.1 FTSE Blossom指数シリーズのパフォーマンス(トータルリターン、円ベース)
出所:FTSE資料にBDG加筆
図2.2 GPIFが採用するESG指数一覧
出所:GPIFホームページより
FTSEが公表するESGスコア (FTSE Russell ESG Rating)は、ESGすべての要素を加味した総合評価です。企業の有価証券報告書や統合報告書、CDPやTCFDなどといった公開情報をもとに、5点満点で評価されます。
具体的な採点の仕組みとして、ESGの3項目(3ピラー)と、その下に存在する14テーマ、さらに細分化された300を超える調査項目から構成されています。各段階においては、潜在的リスクの特定と、リスクへの取り組みの評価という2軸に沿って、ESGパフォーマンスの調査が行われます。潜在的リスクは、14の各テーマに対する企業の事業特性を考慮した影響度合いとして3段階で評価されます。ここでリスクエクスポージャーの程度が判断され、各レベルのリスクについて、十分な対応・取り組みがなされているかどうか、5段階で評価される仕組みになっています。
最終的に算出された5点満点のESGスコアは、ESG指数に組み込まれる銘柄の選定の基準となります。例えば、日本のESG指数であるFTSE Blossom Japan Indexでは、ESGスコアが3.3以上の企業が構成銘柄に選定されます。FTSEのESGスコアは、ESG指数への組み入れ基準になっていることからも、ESG投資における重要な指標となっています。
図3.1 FTSE Russell ESG Ratingsの構造
出所:内閣府資料より
図3.2 FTSE ESG指数(日本)の詳細(2023年6月時点)
出所:FTSE資料より
FTSEのESGスコアでは、リスクの特定と対策が十分になされているかどうかが、対象となる企業の公開情報をもとに評価されます。したがって、ESGスコアの向上においてはESG課題への取り組みを強化するだけでなく、適切な情報開示を行うことが必要となります。
自社のESG関係する多種多様なデータを適切に開示・報告する上では、国際的な開示フレームワークの活用が効果的です。比較的ESGスコアの高い企業では、SASBやGRIスタンダード、TCFDといった主要なフレームワークを用いた情報開示が行われています。また、FTSEをはじめとするESG評価機関においても、評価手法の策定に際して、主要な開示フレームワークと整合させていることから、有効だといえます。また、ESGに関する取り組みの推進にあたっては、専門のコンサルティングサービスも利用されています。
図4 FTSE Russell ESG Ratingの紹介
出所:FTSE資料より
FTSE のESGスコアは年々上昇傾向にあり、フランスやオランダ、イギリスに属する企業の平均スコアは2019年時点で3.5を超えるなど、主要国全体でのESGパフォーマンスの向上が見受けられます。日本においても、2019年にはスコア4.5以上の企業が全体の5%近くに達しており、上場企業でのESG対応が進められていることが分かります。一方で、テーマ別の平均スコアでは、12のテーマで他の先進国の平均を下回っており、依然として世界市場での遅れをとっている状況です。
FTSEはESGスコアの採点基準を適宜更新しており、世界でのサステナビリティの動向が反映された内容になっています。2018年には、水資源に関するリスクの高まりを受け、「水の安全保障」を中心に改訂、2019年は「人権と地域社会」の調査項目を修正するなど、毎年評価基準が変化しています。
ESG投資市場においてはFTSEの存在感が増す一方、MSCIやS&P Globalなど、他のESG評価機関の動きにも注目をする必要があります。似たような評価項目もありますが、その評価方法や採点基準が異なることから、個別の対応が求められる部分もあります。
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CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
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