昨今、森林関連課題に紐づく企業活動について情報開示を求められています。
世界目標であるパリ協定の1.5℃目標を達成するためには、CO₂吸収源としての森林の役割が必要不可欠だとされています。一方で、過去50年間で世界の森林の半分が喪失しており、気候変動の悪化など私たちの生活を脅かすリスクとなっていることから、森林の保全と再生が喫緊の課題に。
また、生物多様性においても、2030年までにネイチャーポジティブを目指し、取り組みを強化させることが合意されており、気候変動と同様に森林保全が重要視されています。
これらの背景から、世界中の政府や投資家が森林減少を止めるべく活動を始めており、企業の取り組みが注目されているのです。
今回は企業と森林関連課題の関係性についての情報開示をサポートする「CDPフォレスト」について解説します。
目次 Index
CDPとは英国に本拠地を置く国際環境NGOです。世界の主要企業がどのような環境活動を行っているのか投資家に代わって各企業宛てに質問書を送り、企業の回答内容について分析・評価を行って、その結果を開示しています。
CDPが収集した企業データはスコアリングされ、主にESG投資を行う機関投資家にデータベースとして参照されており、企業の環境への取り組みの指標として全世界的に影響力を強めています。
質問書の対象テーマはCDP発足当初は気候変動のみでしたが、現在では、水・森林・生物多様性・プラスチックと様々な環境課題が対象になっています。
CDPの全体像について、こちらの記事でより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください!
CDPフォレストは、森林減少の主な要因とされる7つの農林畜産物類(以下、森林リスク・コモディティ)の生産に関連した企業の取り組みを把握し、回答を通じて改善をサポートする質問書です。
森林減少を止めるためには、企業活動に関連する森林伐採および土地/生態系転換をなくすことが求められています。CDPフォレストはこの活動を追跡し、改善を後押しする質問書となっています。
CDPフォレストにおいて、森林減少の要因となる主な森林リスク・コモディティは、畜牛品、パーム油、大豆、木材、天然ゴム、カカオ、コーヒーの7種類です。
WWFが2021年に発表した報告書では、熱帯・亜熱帯だけでも、この10年間で英国の約2倍の面積に相当する森林が喪失。この主な原因は森林リスク・コモディティの生産に伴う森林伐採や土地の利用転換が原因とされています。
CDPフォレストでは、これら森林リスク・コモディティと関連性のある企業に質問書を送付し、森林破壊を止めるための取り組み状況を評価しています。
CDPフォレストの回答要請対象企業は、事業活動の内容とその規模を考慮し、以下の手順で決定されます。
①森林影響評価
バリューチェーンにおいて、畜牛品・パーム油・大豆・木材・天然ゴムの生産や使用を通じて、森林に有害な影響を与える、または影響を受ける可能性のある産業を特定。
②森林影響レーティング
①で特定した関連産業を森林への/からの潜在的影響の大きさに応じて、「Critical」、「Very High」「High」「Medium」「Low/No Impact」に分類。
③売上割合
関連産業に関連する企業の同活動からの売上割合を推定。
④対象企業の選定
②で決定した森林への影響の大きさと、③で推定した売上割合の双方を考慮して対象企業を選定。
また、他にもGlobal Canopy’s Forest 500、SPOTT Index、Food Value Chain、FAIRR initiative等を参照し決定しています。
対象となるコモディティに直接的に関連のある企業だけではなく、生産・製造の過程でこれらコモディティが使用されている場合も対象として含まれています。(例:バリューチェーンにおいて使用された燃料用の木材、家畜生産に必要な飼料としての大豆)
2024年の質問書からは、環境課題ごとに分かれていた質問書が1つに統合されました。
リスク管理やガバナンス体制、事業戦略など環境課題に共通する内容について問われるテーマ横断パートと、環境テーマ別の実績データなどが問われる環境テーマ別パートと大きく2パートで構成されています。
フォレストの回答要請があった場合は、横断パートに加えて、Module8に回答をします。
※テーマ横断パートのうちModule12は金融セクターのみ回答
2023年にCDPフォレストの質問書が送付された日本の企業数は271社あり、そのうち39%にあたる105社(グループ親会社により回答した3社除く)が回答しました。2022年の回答社数87社から18社増加しました。日本企業における回答率は年々上昇傾向にありますが、気候変動の回答率64%に比べるとまだまだ低い状況です。
2023年の日本企業のうち、回答対象となっている業種で最も多いのは小売業で、素材業、食品・飲料・農業関連の業種が続きました。一方で、回答率でみると、製造、素材、食品・飲料・農業関連においては、業種別の回答率が50%以上となっている一方で、対象企業数が最も多い小売業の回答率は23%でした。
また、回答した企業についても、すべての企業がデータを完全に収集・開示できているわけではなく、求められる回答が詳細になればなるほど開示企業が減少する傾向にありました。
昨今、森林減少に向け国際的に議論が進められており、投資家においても森林破壊に関連する投資の停止に向けた行動がとられています。今後企業による開示がますます求められるでしょう。
森林減少は気候変動や生物多様性など様々な環境テーマに影響を与える課題であることから、CDPフォレストでは自然や生物多様性関連の最新動向と連動するように作成されています。これにより、企業が森林減少を止めるために取り組むべき内容を網羅した質問書となっており、回答を通じて他の自然関連開示への準備もできるようになっています。
今回は「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」と「TNFD」に着目して、CDPフォレストとの関連性を解説します。
昆明・モントリオール生物多様性枠組みは、2022年のCOP15において採択された世界目標です。2050年ビジョン「自然と共生する社会」、2030年ミッション「生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せる(ネイチャーポジティブ)」とその実現のための23の目標が設定されました。
CDP質問書の中でも特にフォレストテーマでの回答は、23の目標のうち、2030年ターゲット3、8、15、18、19を達成するために重要な役割を果たしています。
※各ターゲットの詳細は下図をご参照ください。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業や金融機関が、自然資本や生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価・開示するためのフレームワークを確立することを目的として設立された国際的な組織です。日本においてもTNFDに賛同し開示をする企業が増えています。
CDPはTNFDとの関係性を示すレポートを発表しており、CDPフォレストの質問はTNFD開示において推奨されるLEAPアプローチと整合するようになっていることから、CDPに回答したデータをTNFD開示においても活用できると、明らかにしています。
今回のコラムでは、CDPフォレストについてお伝えしてきました。森林関連課題の解決に向け、自社操業における取組状況の把握に加え、サプライヤーの取り組み状況を把握・管理し、生産者・生産地における森林減少と土地転換をなくすためのエンゲージメント活動を通じた、土地利用・自然資本へのポジティブインパクトへの寄与が求められています。
サプライヤーとの連携がより一層必要となり、回答のハードルが高いですが、回答することで改善点を知ることも可能となります。まずは、CDPフォレストの質問書の内容を確認し、自社の取り組みやデータ収集状況とのギャップを確認することから着手してみてはいかがでしょうか。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。
CDPフォレストについてもご支援が可能ですので、『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・[企業向け]CDP2023フォレスト質問書導入編.CDP.(参照2024.11.05)
・CDPフォレストレポート2023:日本版 運用資産総額136兆米ドルを超える740超の金融機関を代表して.CDP. (参照2024.11.05)
・森林破壊と土地転換のないサプライチェーン 実行のためのガイド.WWF. (参照2024.11.05)
・CDP Capital Markets Request.CDP.(参照2024.11.05)
・Corporate Disclosure Key changes for 2024 Part II.CDP.(参照2024.11.05)
・Guidance&questionnaires.CDP.(参照2024.11.05)
・昆明・モントリオール生物多様性枠組.環境省生物多様性ウェブサイト.(参照2024.11.05)
・Using CDP data for nature-related risk and opportunity assessments.CDP.(参照2024.11.05)