世界的に環境問題への対策が必要となっている昨今、サプライチェーン全体でのGHG排出量の削減など、中小企業(SME:Small and Medium Enterprise)も含めた取り組みが重要視されています。この流れを受け、取引先企業から環境へ配慮した取り組みや情報開示を求められることも。
CDPでは中小企業向けの質問書(SME質問書)が設けられており、2023年度まではパイロット版でしたが2024年度より新しく正式版が公開されました。
ここでは今後拡大が想定される中小企業向けのCDP質問書についてご紹介します。
CDPは 2002年に設立され、企業に対して環境に関する取り組み状況を問う質問書を送付し、その内容を評価し開示している非営利団体です。気候変動のみならず水セキュリティ(水管理)やフォレスト(森林管理)の質問書を毎年企業に対して送付し続けており、その回答率は年々増加しています。2024年11月にCDPが出したリリースによると、2024年に回答した組織数は24,800社にのぼり、世界の時価総額の66%以上を占めているようです。これは投資家やサプライヤーなどが、企業の環境に関する透明性を重視する流れが加速している証拠といえるでしょう。
日本においてもこの動きは顕著です。プライム市場に上場している1,000社以上の企業を含む、1,700以上の企業・団体がCDPの質問書に回答しています。CDPのスコアは企業のサステナビリティへの対応度を評価する基準として機能しています。
CDPについてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
中小企業向け質問書であるSME質問書は、通常の質問書である完全版質問書と比べると項目数や質問数が少なく設定されています。
完全版質問書で設けられている環境項目は気候変動、水セキュリティ、フォレスト、生物多様性、プラスチックの5つですが、SME質問書では気候変動、水セキュリティ、フォレストの3つの項目のみとなります。
また、スコアリングについてもSME用のレベルが設定されています。2024年度では「リーダーシップレベル」の設定はないものの、将来的には定められる予定です。スコアリングは気候変動のみとなっており、水セキュリティ、フォレストについてはスコアリングされません。
SME質問書を選択できるのは従業員数が1,000名未満かつ売上高が2億5,000万ドル未満の企業となります。ただし、前述の条件に当てはまる企業でも完全版の質問書を選択することが可能です。また、CDPからは従業員数が500名以上かつ売上高5,000万ドル以上の企業は完全版の質問書へ回答することが推奨されています。
CDPの質問書は大項目ごとにモジュールが分かれており、2024年度のSME質問書においては全8モジュールで構成されていました。
回答する内容は、企業の基本情報等を除くと「リスクと機会」、「ガバナンス」、「事業戦略」、「環境実績データ」の4つに分けられます。ここでは簡単に回答内容について説明します。
自社の環境に関するリスクと機会について、特定・評価・管理するためのプロセスを有しているか、具体的にどのようなリスクや機会があるかについて開示。
例えば、異常気象の激甚化による経営リスクやサステナビリティの進む社会での新たなビジネスチャンスについて回答することとなります。
環境課題に関連するガバナンスとして環境課題への責任の所在について回答。企業が環境方針を策定しているかどうか、策定している場合はその内容についても開示します。
環境に関するリスクと機会が、自社の戦略や財務計画へどのように影響しているかを回答。また、気候移行計画を策定しているかどうか、環境課題についてステークホルダーとどのような協働をしているかについての質問もあります。取引先企業から回答要請があった場合は、その企業との協働の取り組み内容も回答します。
GHG排出量に関する開示が求められます。該当するものとして挙げられるのは、Scope1,2,3の排出量や削減目標、削減活動などです。回答要請があった企業との事業活動におけるGHG排出量についてもここで回答します。環境実績データは気候変動についてのみ質問が設けられています。水セキュリティ・フォレストについての質問はありません。
2024年度は完全版質問書とSME質問書で共通の費用となっており、日本においては「Foundation Level」と「Enhanced Level」の2プランから選択となります。(Essential Levelは対象外です。)
Foundation Level(310,000円) |
・CDPのプラットフォームを通じて回答 ・報告フレームワークやガイダンスを含むCDPの一連のツールを利用可能 ・CDPを通じた情報開示による(投資家及びステークホルダーとの)コミュニケーションの機会が得られる ・該当する場合、地域CDPイベントへの参加費前払い/優先登録を受けることが可能 |
Enhanced Level(740,000円) |
・CDPのプラットフォームを通じて回答 ・報告フレームワークやガイダンスを含むCDPの一連のツールを利用可能 ・CDPを通じた情報開示による(投資家及びステークホルダーとの)コミュニケーションの機会が得られる ・CDPサポーターマークのロゴデータ付与 ・CDPサポーターとしてCDPウェブサイトへの組織名の掲載 ・企業サステナビリティレポート等へのCDPディレクターからのコメント ・CDPウェブサイトからの他社回答閲覧回数100回(通常は20回) ・CDPベンチマークレポート作成(同業他社10社との詳細な比較内容を含む) ・1社1名の人数制限があるCDPの地域イベントに2名まで参加可能、また企業名の紹介 ・関連するCDP認定パートナーとの1時間の無料コンサル ・サプライチェーンにおける環境活動を把握するため、上位50社のサプライヤーを対象とした補完的なスクリーニングの実施 |
CDPの質問書に回答するメリットは以下の3点です。
大企業においてはサプライチェーン全体を通したGHG排出量削減を掲げている事例も増えつつあります。それにともなって、取引先である中小企業に対してサステナビリティ推進に向けた取り組みや環境関連の情報開示の要請が増えるでしょう。そのため、サプライチェーンパートナーとして責任を全うすることで、継続的な取引に繋がるメリットがあります。
また、ESG投資は今後も拡大する見込みで、CDPに回答することで環境経営に力を入れているというアピールや企業のブランド価値を高めることにもつながります。
環境経営が求められることが増え、中小企業でもCDP回答による情報開示が拡大していくでしょう。対象となる企業であれば回答が比較的簡易なSME質問書の選択も可能です。まずは自社のサステナビリティの取り組みを整理し、情報を収集することから初めてみてはいかがでしょうか。弊社では中小企業を対象としたCDP回答支援サービスも実施しておりますのでお気軽にご相談ください。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・CDP 2023 disclosure data factsheet.CDP(2024年11月参照)
・[企業向け] CDP概要と回答の進め方 2024年5月.CDP(2024年11月参照)
・CDP2024 情報開示ウェビナー第1回 CDPを通じた環境情報開示.CDP(2024年11月参照)
・CDP2024 コーポレート質問書概要.CDP(2024年11月参照)
・CDP2024 コーポレート SME(中小企業)版質問書 モジュール 14-21.CDP(2024年11月参照)
・CDP SME Questionnaire An Overview.CDP(2024年11月参照)
・CDP SME Scoring Introduction 2024.CDP(2024年11月参照)
・Admin fee FAQ. CDP(2024年11月参照)