パリ協定の1.5℃目標を達成するために、自治体が果たす役割への注目が国際的に高まっています。日本でも同様に、自治体が世界標準に沿った環境報告を行う重要性が増しています。
自治体の環境情報は、国連Global Climate Action Portalを含む気候変動対策の国際議論における重要なデータソースです。
また自治体は、CDP、世界気候エネルギー首長誓約(GCoM)、C40、Race to Zero, Race to Resilienceといった国連キャンペーンにも環境情報を開示可能です。
この記事では、自治体における環境関連の情報開示をサポートする「CDPシティ」の概要と、自治体がCDPに回答する意義について解説します。
CDPは 2002年に設立され、企業に対して環境に関する取り組み状況を問う質問書を送付し、その内容を評価し開示している非営利団体です。気候変動のみならず水セキュリティ(水管理)やフォレスト(森林管理)の質問書を毎年企業に対して送付し続けており、その回答率は年々増加しています。2024年11月にCDPが出したリリースによると、2024年に回答した組織数は24800社にのぼり、世界の時価総額の66%以上を占めているようです。これは投資家やサプライヤーなどが、企業の環境に関する透明性を重視する流れが加速している証拠といえるでしょう。
日本においてもこの動きは顕著です。プライム市場に上場している1,000社以上の企業を含む、1,700以上の企業・団体がCDPの質問書に回答しています。CDPのスコアは企業のサステナビリティへの対応度を評価する基準として機能しています。
CDPについてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
「CDPシティ」は、都市や自治体が回答対象となるCDP質問書です。自治体はCDP質問書への回答を通して、気候変動課題に対する取り組みについて自ら環境影響を計測、管理、開示することにより、気候変動対策を促進することができます。
パリ協定の1.5℃目標達成や持続可能な経済へ移行するために、自治体の果たす役割は極めて重要であり、そこで暮らす人々や働く人々にとってより良い都市・地域づくりに貢献する質問書となっています。
パリ協定の1.5℃目標達成のためには、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を45%削減し、2050年までにネットゼロに到達する必要があります。
都市は人口密度が高く、全世界のGDP の80%が生み出されている一方、温室効果ガス排出量についても、都市部からの排出とされているのは60~70%。また、2050年までに世界の人口の70%が都市部に住むことが予想されています。人口10万人以上の都市による気候変動対策は、エネルギー、建築物、運輸、廃棄物に関する主要な緩和策に力を注ぐことで、都市は温度上昇1.5℃の経路で活動し、パリ協定の目標に貢献するために必要な排出削減量の90~100%を達成することができると推定されています。
以上のように、自治体は、気候変動課題を解決に導くための重要な役割を担っており、それを後押しするためのツールとしてCDPシティ質問書が生まれました。
このような背景から、自治体による環境関連の情報開示は、気候変動対策を促進する最も強力なツールの一つとして期待されています。透明性を高めて環境情報を報告することで、排出削減やレジリエンスの構築においてより野心的な目標を設定することにつながり、気候変動対策を加速させられるでしょう。
また、CDPシティの質問書は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」の具体的なターゲットのうち5つと一致。自治体がCDPへの回答を通して気候変動対策を推進することは、将来の経済成長を持続すると同時に、人々の生活や仕事をするのに安全な場所として存続することにつながります。
企業が回答するCDP質問書は、企業がCDPから回答要請を受けます。一方で、自治体がCDPシティ質問書に回答する場合は、直接CDPへ問い合わせをすることで参加することが可能です。
また、質問書への回答は無料であり、非公開で回答することもできます。回答は任意であるため、最低限報告すべきデータについては特に規定されていません。自治体には回答に対するスコアとともに、日本語のフィードバックレポートが提供されます。このレポートから、地域の平均値との比較、スコアの説明と改善のためのリソースが得られます。そのため、自治体は政策や計画を策定するなど、具体的な改善を図ることが期待できるでしょう。
2023年のCDPシティへの回答を通して、世界で1,200以上の自治体(都市、州・地域含む)、日本では141の自治体が環境情報を開示しました。日本の自治体の開示数は年による増減はあるものの世界最大規模であり、2021年には環境省と連携の結果、温暖化対策推進法施行状況調査データを活用し、世界で最も多い開示数となりました。
これまでCDPシティのAリストに選定された日本の自治体は、東京都、京都市、相模原市、新潟市、福岡市、横浜市の6都市です。
2021年より3年連続でAリストに選定されている東京都は、ゼロエミッション戦略、再生可能エネルギー、食品ロスの削減の3つを軸として、気候変動対策に取り組んでいます。2030年までに温室効果ガス排出量を半減し、2050年までに実質ゼロを達成することを目標に掲げており、再生可能エネルギーや水素エネルギーの普及を促進する取り組みを推進。さらに、2030年までに食品廃棄物を半減させるための計画として「東京都食品ロス削減推進計画」を策定し、事業者と消費者による自主的な取り組みと協調的な努力を積極的に促進しています。
今回のコラムでは、CDPシティについてお伝えしました。パリ協定の1.5℃目標達成や持続可能な経済へ移行するため、自治体の果たす役割と与える影響に対する注目度が高まっています。
気候変動対策だけでなく、そこで暮らす人々や働く人々により良い都市・地域づくりを促進するため、CDPシティへの質問書の内容を確認し、環境影響を計測、管理、開示の検討をしてみてはいかがでしょうか。
対応についてお悩みの際には、CDPシティ回答支援実績もある弊社に、ぜひご相談ください。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・自治体向け質問書&ガイダンス.CDP.(参照2024.11.17)
・CDPシティ2024:新ポータル紹介と質問書概要.CDP(参照2024.11.17)
・シティ:2030年に向けて.CDP.(参照2024.11.17)
・危機に立ち向かうための連携.CDP.(参照2024.11.17)
・CDPシティ:2022年導入編.CDP.(参照2024.11.17)
・CDPシティのご紹介.CDP(参照2024.11.17)
・COP29開幕:世界の大企業は、気候変動のビジネスチャンスを5兆米ドルと推定-従来の予測の2倍に.CDP(参照2024.11.17)