住宅事業と建設事業を展開する5社が統合する形で、2020年に設立されたプライム ライフ テクノロジーズ様。設立当初からスピーディーにサステナビリティの取り組みを進められてきた一方で、グループ各社の意識を統一するという課題もあったと言います。同社はそうした課題をどのように乗り越え、初の環境報告書発行まで漕ぎつけたのでしょうか。経営企画部のお三方にお伺いしました。
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“プライム ライフ テクノロジーズ様の事業とサステナビリティへの取り組みについて教えてください。”
当社は2020年に、住宅事業を展開する3社(パナソニックホームズ・トヨタホーム・ミサワホーム)と建設事業を展開する2社(パナソニック建設エンジニアリング・松村組)が集まって設立された会社です。設立当初、我々の売上の約6割は請負事業が占めていましたが、2023年に策定した中期経営計画にて循環型ビジネスモデルを構築することを表明。現在は従来型のメーカー・ビルダーの枠を超え、建築した建物や空間に末永く寄り添い、社会課題を解決する多様なまちづくりを継続的に行うことを目指しています。
具体的な取り組みとして住宅事業では、ポートフォリオの転換を推進中。これまで新築請負事業をメインとしていましたが、今後はリノベーションにも注力していきます。こうした循環型ビジネスが目指せるのは、新築の販売という一生で一番高価な買い物に携わってきたバックボーンがあるからこそ。お客様に寄り添いながら要望を最大限実現してきた経験から、お客様との末永いお付き合いが当社のカルチャーとして根付いているのです。
そんな当社では、設立から2年で「2050年までのカーボンニュートラルの実現」を宣言したり、次の年にはRE100 に参画したり、比較的スピーディーにサステナビリティ対応を進めてきました。その理由としては、同業他社の取り組みレベルがあげられます。というのも住宅業界の競合は上場企業が多く、みなさん当たり前にサステナビリティ関連の取り組みを進めている状況。そうした中でサステナビリティの視点を持たず事業を展開すれば、ビハインドしているという印象を与えてしまうと考えたのです。ただそうは言っても1社単体でできることには限りがあり、賛同したいけれど1社だけでは基準を満たせないイニシアティブもありました。その点グループであれば基準を満たすこともできますし、ノウハウの蓄積や新しいアイデアが生まれる体制づくりにもつながります。そんな風に「1社だけではできないことをやろう」と考える中で、必然的にサステナビリティ対応にたどり着いたのです。
“支援企業としてエスプールブルードットグリーンを選ばれたご理由と、実際に活用してみた感想を教えてください。”
TCFD開示やCDP回答について、経営トップを含め多くのメンバーがその必要性を感じていたものの、「どういうフレームワークなのか」「どう進めるべきか」といった知見の部分に課題を感じていました。そんな中でエスプールブルードットグリーンに声をかけてもらい、実績数や支援事例、誰にでも理解できる丁寧な説明に魅力を感じ、サポートを依頼したのです。
実際支援を受けて一番ありがたかったのは、最初に当社の立ち位置を明確にした上で取り組みのロードマップを示してくれたこと。サステナビリティ対応を進めるにあたり、まず知りたかったのが「自社の現在地」でした。エスプールブルードットグリーンの支援では、当社と他社の間で発生しているギャップをCDPの評価項目に沿って分析してくれるため、「何ができていて、何ができていないのか」明確に認識することができます。支援中は分析結果を基に「CDPで○スコアを取りたい」→「それなら○月までにデータが必要」→「その前にTCFDに取り組むべき」といったロードマップを提示してくれ、その上で初心者にも理解できるよう粘り強く説明しながら、ロードマップを歩むガイドもしてくれました。正直エスプールブルードットグリーンがいなければ、CDP回答はもちろんTCFD開示もできなかったでしょうし、今回のようにインタビューをしてもらう機会もなかったのではないかと思います。
加えて、我々に寄り添った柔軟な対応にも大変助けられました。CDP回答の前にTCFD開示もサポートいただいたのですが、拠点数の多さから指示されたデータの収集が難しい項目があって。それをコンサルタントに伝えたところ、「ハザードマップ上でリスクのある拠点を絞ったので、該当する拠点のデータのみ収集してください」と再提案してくれたのです。「データが収集できないなら開示は難しい」と杓子定規に断定するのではなく、我々の状況に寄り添いながら我々視点で検討いただいたことに、とても感謝しています。拠点を厳選してもらえたことで何とかデータも収集でき、メンバーが納得する形で開示することができました。
“グループ複数社と連携して対応する上で、感じた課題があれば教えてください。”
何より難しかったのが、言葉の定義や算定方法を統一すること。元はそれぞれで事業を展開していた5社ですから、5通りの言葉がありますし、仕事の進め方も異なります。まず各社の現状を把握し、共通言語で示そうと試みたのですが、これがもう本当に大変でした。たとえば排出量は、協会などに報告する必要があり各社とも算定していたものの、それぞれのやり方で算定している状況だったのです。 そのため認識の統一に向けて、月1回くらいのペースでディスカッション を何度も繰り返して。「排出量の現状はこう」「Scope3の範囲はここ」などと話し合いながら、徐々に言葉の定義を整理していったのです。このディスカッションは役員も含めながら2年ほど継続し、その後ガバナンスを活かせる組織にするため「カーボンニュートラル推進委員会」へと発展させました。
エスプールブルードットグリーンのサポートがスタートしたのは、このカーボンニュートラル推進委員会が発足したタイミング。委員会に発展した一方で、5社の意識を統一するという課題は残っていたため、まずはその調整をサポートいただきました。たとえばグループ各社が集う会議の前に我々経営企画部と事前の打ち合わせをしてもらったり、会議であがった意見を基に方向性を明確にしたり。こうした事前・事後の打ち合わせがなければ5社を束ねることは難しかっただろうと思います。
グループの中には当然、扱う商品や売上規模の違いから「うちはまだ早いのでは?」という意見もあって。ただそこにコンサルタントがいることで「これはマストと言われているので」「○日までに○○すると約束しているので」と、巻き込むことができます。特にエスプールブルードットグリーンは最初にきちんとスケジュールを示してくれたので、その存在を上手く利用しながら5社の意識をまとめていきました。
“サービス導入の成果と、その後の波及効果についてはどう感じられていますか。”
これまで取り組みについては「環境コミュニケーションブック」という媒体で発信していたところ、エスプールブルードットグリーンのサポートもあって2024年に初めて「環境報告書」を発行できました。経営層が驚くほど充実した内容になりましたし、今後は対外的なPRにもどんどん使っていく予定です。こうした発信を通して「サステナビリティの取り組みをしっかりしている会社」ということがお客様に伝われば、これまで以上にお仕事をいただけると考えています。さらに最近では環境系のメディアに取り上げられたり、リクルート活動でサステナビリティの取り組みをアピールしたり、といった変化も。エスプールブルードットグリーンのサポートを通して、当社のブランド価値を訴求する1つのポイントとして「サステナビリティ」を明確化できたからこそ生まれた、非常に大きな変化だと考えています。
その一方で、きちんと明確化できた分「グループ内にしっかり浸透させなくては」という思いも強くなりました。実現するためにはサステナビリティの取り組みを自分ごと化してもらう必要がありますが、グループ社員は2万人もいます。その中でカーボンニュートラル推進委員会に参加しているのは50人ほど。この50人から「いかに2万人に落としていくか」がポイントになると思うのです。現在は経営層自らにリーダーを担ってもらうことで社内への浸透度を高めていますが、今後は環境報告書などの発行を社外だけでなく、社内にも積極的に発信していくことで浸透度を加速させたいと考えています。
“最後に、今後の取り組みについてお聞かせください。”
今後については、3つのステップに分けられると考えています。まず1ステップ目として取り組みたいのは、Scope3削減に向けての対応です。2023年度実績においては、住宅のライフサイクルに伴う排出と購入した製品・サービスが全体の86%を占めていることが分かりました。これらの削減のためには、さらなる省エネ住宅の普及とサプライヤーとの協働が必要不可欠。確実な排出量削減に結び付く戦略を立てられるよう、しっかり協力していく予定です。
次に2ステップ目としては、サプライヤーや同業他社などステークホルダーとの協業、特に技術連携に取り組みたいと考えています。たとえば現在はパナソニックホールディングスが試作している「ペロブスカイト太陽電池*」や、トヨタホームが展開している「クルマde給電」など新しい技術やシステム続々生まれている状況。こうした技術を我々のまちづくり事業を通して実証しながら対外的に訴求し、ステークホルダーを巻き込んだ開発を進めていきたいと考えています。
とはいえこうした取り組みも、企業である限りは事業に発展させ収益を上げていかなければいけません。そのため3ステップ目としては、循環型ビジネスを基盤にしながら事業の幅を広げていくことを掲げます。これは時間がかかることかもしれませんが、グループ各社はもちろんサプライヤーや同業他社などと協力しながら、ビジネスとカーボンニュートラルの両立を叶えていきます。乞うご期待ください。
*ペロブスカイト太陽電池:軽くて柔軟なペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池
[企業紹介]
プライム ライフ テクノロジーズ株式会社:https://prime-life-tec.com/