1923年の創業以来、ものづくりにこだわり印刷機械システムメーカーとして世界各国から高く評価されてきた小森コーポレーション。情報開示においては、印刷業界の中での自社の立ち位置を明確にすることが課題となっていたと言います。同社はそうした課題をどのように解決してきたのでしょうか。経営企画室経営企画課 課長の杉原様、開発推進部 Green-PJプロジェクトリーダーの平田様に伺いました。
目次 Index
“小森コーポレーション様の事業とサステナビリティへの取り組みについて教えてください。”
当社はオフセット印刷事業を中心として、証券印刷事業・デジタル印刷事業・プリンテッド・エレクトロニクス事業と、大きく分けて4つの事業を展開しています。中でも基盤事業と言えるのが、オフセット印刷事業と証券印刷事業です。当社のオフセット印刷事業は、事業全体の売上の60%を占め、国内市場では50%以上のシェアを誇ります。加えて90の国・地域と取引があり、世界でも第3位と高いシェアを保持。また証券印刷事業では、世界に2社しかない紙幣印刷機メーカーの一つとして、38の国と地域と取引を行い、安定的な業績を築いています。
ただ持続可能性や環境への影響の視点で見ると、オフセット印刷現場では課題が多くあったのも事実です。たとえば、印刷物の絵柄が変わる度に機械に登って手動で刷版を交換しなければなりませんでしたし、印刷後の裏移りを防ぐためのパウダーは機械周りに飛散して作業環境を悪化させると言われていました。そのため当社では、刷版の交換を効率化させる自動刷版交換装置を開発したり、パウダーを使用せずとも印刷物の裏移りを防げるUVインクによる速乾システムを装備した印刷機を開発したりと、コツコツ課題解決に取り組んできたのです。また、印刷時に無駄になる紙の量を減らすための自動調整や自己学習機能の開発により、紙使用量の削減という直接的に環境影響負荷低減に貢献する取り組みも実施してきました。このようにお客様の要望や社会課題に対して技術で応えてきたことが、結果的に現在で言う“サステナビリティ”に繋がっているように感じます。
その一方で、2000年頃からは企業の環境活動に注目する世の中の動きが拡大。もともと印刷業は環境に悪いイメージがありましたから、それを払しょくするためにも2001年に環境委員会を、2013年には環境活動をより推進するためのグリーンプロジェクトを立ち上げました。
“どのような理由から、支援企業としてエスプールブルードットグリーンを選ばれたのでしょうか。”
有価証券報告書への非財務情報記載やCDP回答要請など、企業に求められる対応が高度化していく中で課題となったのは、“社内での旗振り役がいない”ということ。同業かつ同規模のベンチマークできる企業がいないだけではなく、当社には専門部署もありません。他社ではESG推進室やサステナビリティ推進室といった専門部署が対応する中、リードする部署がない我々は会社としての方向性も定まらず、悩みながら対応していたのです。最初は何とか自分たちだけで対応しようとしていましたが、進めていく中で「これは外部活用した方が的確な対応ができるのでは」と思う機会が増えコンサルタントに依頼することになりました。
コンサルタントを選定する中で重視したのは、専門性です。CDPやTCFDについて我々なりに調べて、求められていることや自社が持っている情報は把握できたのですが、やはり旗振り役がいない分「どこまで対応すべきか」を決めるのは困難でした。教科書通りにすべて対応しなければならないのか、どの程度対応できれば合格ラインなのか、もし対応しなかった場合にはどのようなデメリットがあるのか。「この情報を開示することで、投資家や取引先などの外部からこう見られる」といった専門的なアドバイスを求め、さまざまな業態や規模の企業とお付き合いされていたエスプールブルードットグリーンの活用を決定しました。
“エスプールブルードットグリーンを実際に活用してみて、いかがでしたか。”
当社ではエスプールブルードットグリーンを“外部の専門家”として、活用しています。たとえば社内に向けて追加の取り組みを提案する際には、共有いただいたデータを用いて「他社ではこの程度対応している」「当社ではここまで対応すべきだ」などと説明。担当者の意見やコンサルタントの意見だけでは客観性に欠けますが、エスプールブルードットグリーンとのミーティングではお互いにディスカッションを重ねながら「当社が取り組むべきレベル」を明確にできたため、我々も自信を持って社内へ提案することができました。もし自社だけで対応し続けた場合、「どこまで対応すべきか」が長い間見えずに、結果的に社外から好意的ではない評価が下された可能性もあったと思います。
また業界の動向や当社の発行物をミーティング前に調査した上で、「こういう取り組みはしていますか?」「これについて記載するのはどうですか?」と積極的にヒアリングしていただけるのも嬉しいポイントです。やはり社内にいると、当たり前となって見過ごしてしまう取り組みも多くあります。そういった自分たちでは気づけないところを、専門家目線でピックアップしてくれたのは大変助かりました。加えて全体のスケジュールを分かりやすく提示してくれるのも魅力の一つです。サステナビリティ対応は複数部門の協力を得ながら進めるため、全体のスケジュールが見えていないと動きにくい部分があります。その点エスプールブルードットグリーンは、キックオフの段階で全体のスケジュールを提示してくれるため「誰がいつまでに何をやるか」、関わるメンバー全員で共通認識を持ちながら進められるのです。
これらの点も含めて、支援中はコンサルタントの対応のきめ細やかさや寄り添う姿勢に何度も驚かされました。商談時には分かりやすく詳細な資料を提示してくれたり、CDP回答では我々がバラバラと発言したことを理路整然とした文章にまとめてくれたり、ただ闇雲にスコアを上げようとするのではなく、当社の状況や維持したい姿を汲み取って回答の表現を調整・提案してくれたり。特にTCFDでは、当初定量分析は諦めていたところ「数値の範囲で分けて対応してみては?」と提案してもらい、一定の範囲において定量的な分析を実現できました。こういった経験から、エスプールブルードットグリーンの営業やコンサルタント一人ひとりの人柄に魅力を感じています。
“サービス導入の成果と、その後の波及効果についてはどうお考えですか。”
一番の成果としては、自社製品の排出削減目標を事業目標に直接結びつけられるようになったことが挙げられます。というのも、TCFDやCDPに取り組む以前に目標として掲げていたのはScope1,2の削減目標のみで、それはあくまでもESG対応としての目標に過ぎなかったのです。ただ現在は長期ビジョンKOMORI2030にて、「環境負荷の低い生産ソリューションの提供」を当社の役割の一つに位置づけ、達成するための目標として「2030年主力製品のCO₂排出量30%削減」を掲げています。自社製品稼働時の排出量削減をCSR的な目標ではなく、経営に直結する事業目標の一部として組み込めるようになったのは大きな変化だと感じています。
加えて、当社では日本以外に90ヶ国で事業を展開しています。特に環境対応が進んでいるヨーロッパでは、環境訴求を打ち出している競合他社と比較検討されることも。そういった場面で、当社のCDPスコアを伝えると好感を持ってもらえることも多く、お客様とのやりとりの中でも効果を感じています。
“最後に、今後の取り組みについてお聞かせください。”
パーパス「プリントテクノロジーで社会を支え感動をもたらす」にもある通り、メーカーである当社が何よりも大切にしているのは製品を通して社会に貢献していくこと。実は当社の場合、Scope1,2,3排出量のうち98%以上はScope3で、中でも最も多いのがカテゴリ11、つまり販売した製品の使用に伴う排出です。この事実から当社では、環境負荷を低減できる製品を開発しサプライチェーン上の排出量削減に繋げることが、最も貢献度の高い取り組みであり、結果企業価値も向上すると考えています。そのため技術開発には、よりいっそう力を入れていく予定です。また印刷機の環境負荷を低減していく過程で培った技術を、別の分野で転用させることも目指したい未来の一つ。こういった大きな機械のエネルギー効率化も含めて、“プリントテクノロジー”として世の中に広めていきたいと考えています。
加えて最近はサプライヤーへの説明の中で、環境に関するトピックを扱う機会も増えてきました。時には「こんなことを実施してほしい」「環境製品を活用してほしい」とご要望をいただくことも。今後は自社の製品開発とあわせてサプライヤーと協力する場面も増やしていく予定です。
これまでお話ししてきたように当社は「技術」にこだわり、技術を用いて社会課題を解決してきた会社。ただ一方で、実行したことを社外に伝える表現の仕方や見せ方には苦手意識があり、後手に回っていたところがありました。その点に関してはエスプールブルードットグリーンを活用し、印刷業界を超えた視点のもと「これは開示すべき取り組みである」「こういう見せ方が効果的である」などサポートしてもらいながら、市場のステークホルダーから活動実績をしっかり見てもらえる開示を継続したいと考えています。
[企業紹介]
株式会社小森コーポレーション:https://www.komori.com/ja/jp/
公式Youtube:https://www.youtube.com/c/KomoriJapan