2024年11月11日から24日にかけて、アゼルバイジャンのバクーにてCOP29が開催されました。本会議は、気候変動の緩和・適応・損失損害対策への資金提供にかかわる「気候資金」をテーマにした重要な会議。その他にもパリ協定第6条をはじめ、重要な成果を生み出しました。一方、先進国と途上国の間で大きな対立が浮き彫りとなり、気候変動対策についての話し合いや合意形成が進まないといった一面も話題に。本コラムでは、通称「資金COP」と呼ばれるCOP29の概要やその成果、対立に至った経緯を振り返りながら、日本の取り組みや主要国の発信についても触れていきます。
なおCOP29は、2024年10月21日から11月2日にかけてコロンビアのカリにおいて開催された、生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)とは異なる会議です。
COP16について、詳しくはこちらのコラムをご確認くださいませ。
>生物多様性の国際会議「CBD-COP16」では何が議論されたのか?関連機関の動向とまとめて解説!
COP(締約国会議)とは、国際条約で加盟国の最高決定機関として設置される会議のこと。参加者には政府関係者、学者、NGO、ビジネスリーダーが含まれ、約2週間にわたり多様なテーマでの情報交換や議論が行われます。条約ごとに異なるCOPが開催されており、例えば気候変動に関するCOPは“国連気候変動枠組み条約締約国会議”、生物多様性に関するCOPは“生物多様性条約締約国会議”と呼ばれます。また条約ごとに開催頻度も異なり、気候変動に関するCOPは年に1度、生物多様性に関するCOPは2年に1度という開催頻度です。
なお本コラムで紹介しているCOP29は気候変動に関するCOPのため、“国連気候変動枠組み条約締約国会議”に分類されます。このCOPでは、特にパリ協定や京都議定書など、国際的な気候変動に関する大きな合意が生まれる場として注目が集まりやすいという特徴も。今回開催されたCOP29は注目度が高い国際会議であったことが伺えるでしょう。
では今回開催されたCOP29について詳しく見ていきましょう。COP29は、2024年11月11日から24日にかけて、アゼルバイジャンのバクーで開催された気候変動に関する条約国会議のこと。議長はアゼルバイジャンのムフタル・ババエフ環境天然資源大臣が務めました。本会議は、気候変動対策に必要な気候資金をテーマにした「資金COP」とも呼ばれます。この名前の通り、本会議では特に途上国の気候変動対策への目標金額が議論の焦点となり、この拡充が強く求められました。先進国と途上国の意見が対立し交渉が難航したため、当初予定していた期間より2日間延長し閉幕しました。
先進国と途上国の対立が目立ちネガティブな印象を与えがちなCOP29ですが、一方で重要な成果も得られています。本会議で得られた重要な成果は下記2点です。
詳しく見ていきましょう。
まず今回のCOP29で得られた1つ目の成果として、気候資金の新たな合同数値目標(New Collective Quantified Goal: NCQG)が設定された点があげられるでしょう。NCQGは、気候変動の影響を受ける途上国に対して、GHG排出量削減や適応策を実施するために必要な資金を確保するための重要な枠組みのこと。今回は、下記のような目標が決定しました。
最小支援金額を示す目標と、今後資金を拡大させていくための行動を示す目標、という性質が異なる2つの目標が設定されることになりました。なお2つ目の目標で設定されている1.3兆ドルは、会議当初に発展途上国の77か国グループである「G77」と中国が主張していた規模に応じる形で設定されました。帳尻を合わせる形で合意された気候資金目標ですが、先進国と途上国の主張は対立し、溝が埋まらないまま会議は終了しました。
2つ目の成果としては、パリ協定第6条の炭素市場における詳細なガイダンスや方法論が決定し、完全運用化が決定した点があげられるでしょう。そもそもパリ協定第6条とは、国際的な炭素市場のルールを決める条項のこと。パリ協定第6条のしくみは、途上国で行った削減プロジェクトでの削減量をホスト国がNDC(温室効果ガス排出削減目標)や、CORSIAといった国際的な緩和や自主的なオフセットなどに活用できるしくみです。大枠は2021年のCOP26で決定していたものの2022年のCOP27、2023年のCOP28で合意は先送りされ、今回のCOP29でようやく合意に至りました。
今回決定した内容には、主に下記の3つがあげられます。
この6条の中で企業として特に注目したいのは、4項における除去クレジット方法論への合意です。日本企業からも高い関心が寄せられている、大気中から二酸化炭素を除去する「除去クレジットの方法論」が合意され、早ければ2025年中にも関連した取引が始まるとされております。除去クレジットには、大気中の炭素を回収するDAC(Direct Air Capture:直接空気回収技術)という技術を活用した方法や、森林をはじめ、自然資源を活用して炭素を吸収する方法などがあります。
除去クレジットは2050年カーボンニュートラル達成に不可欠と関心が高まっている技術の1つで、今回の合意により国際炭素市場で取引される炭素クレジットの信頼性と透明性の確保・排出削減の実効性が保証されます。この6条4項の適用を承認した国では、NDC(温室効果ガス排出削減目標)達成もちろん、CORSIA等の国際的な緩和や自主的なオフセットにも活用可能です。
日本は「温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする」という目標を掲げています。この目標を達成する際に、除去クレジットは必要不可欠だといえるでしょう。現在、ボランタリークレジット市場における企業間取引が活発であり、その中でも除去クレジットは高品質クレジットとして注目を集めている状況。パリ協定6条のクレジットは国連公認のクレジットとなるため、よりクレジットの価値が上がると考えられます。
DACについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご確認くださいませ。
>DAC(直接空気回収技術)とは? 気候変動対策への重要性を分かりやすく解説!
前述のとおり、本会議では気候資金の議論で、先進国と途上国の間で意見の対立が浮き彫りになりました。途上国は、気候変動の緩和・適応・損失損害対策にかかる膨大な費用を先進国が公的資金によって支援し、その金額を増やして確実に支援をするべきだと主張する立場。一方先進国は、脱炭素への投資には民間資金の活用も重要であることや、中国をはじめ、新興国も資金を出すべきであると主張する立場でした。目標金額が採択された後も、途上国側はその金額が不十分であること、そして先進国が終盤まで態度を明らかにしなかったことなどにいら立ちを見せました。一方先進国側は「現目標の3倍であり踏み込んだ数字だ」と強調。このように対立が際立つ形で閉幕しました。
では日本は本会議でどのような発信を行っていたのでしょうか。第2週には浅尾環境大臣が参加し、日本も積極的な発信を行いました。浅尾環境大臣や日本企業のジャパンパビリオンでの発信など、詳しく見ていきましょう。
日本からは浅尾環境大臣が参加し、気候変動対策に対する日本の取り組みや意義を発信しました。開催国であるアゼルバイジャンと透明性向上の閣僚イベントを共催し、日本は先進国で最初に隔年透明性報告書(BTR)を提出したことを受け表彰されるなど、たしかな存在感を示した場面も。
また閣僚級セッションでは、1.5℃目標実現に向け、NDCの着実な実施が重要であることや、現行のNDC達成や2050年ネットゼロに向け、確実に温室効果ガス削減を進めている日本の成果を強調。1.5度目標に沿った野心的なNDCを2025年2月に提出することを目指して、検討を加速する意向を示しました。
【閣僚級セッションでの日本の主張】
本会議の期間中、日本はジャパンパビリオンと呼ばれる日本のブースで約40のセミナーを開催し、温室効果ガス観測衛星やJCMパートナー国会合、アジアでの気候情報開示など多岐にわたる取り組みの発信、そして約30の他国主催イベントにも参加しました。さらに浅尾環境大臣は、「NDC実施と透明性向上に向けた共同行動」を発表。ネットゼロへの貢献のため、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブは、緩和への費用対効果が高いシナジーアプローチとして強調しました。
また、ジャパンパビリオンには現地で11社、オンラインで39社が出展し、再生可能エネルギーや省エネルギー技術、CCUS(*1)、超小型衛星などの展示に加え、福島の環境再生への取り組みや復興までの道のりと現状について情報を発信。気候変動による防災対策や環境保全といった分野で、途上国を支援している日本企業の最先端技術やノウハウも紹介され、自国に有効な技術を求めて100カ国以上もの来場者がジャパンパビリオンに来訪しました。なお現地でジャパンパビリオンに出展した企業は、下記4つのカテゴリーに分かれます。
(*1)CCUSとは、CO2排出量の削減と共に発生したCO2を回収・輸送し、リサイクル・貯留する取り組みのこと。
【ジャパンパビリオン カテゴリー】
ここでは日本以外の参加国が本会議に向けて発信した内容について、一部ご紹介していきます。
2024年11月23日、アメリカのバイデン前大統領は本会議終了にあたり声明を発表しています。声明では本会議で合意された途上国への気候変動対策資金の増額について、「歴史的な成果」として評価。また、「米国や世界中で進行中のクリーンエネルギー革命を否定したり遅らせたりしようとする人がいるかもしれないが、誰もそれを覆すことはできない」といったトランプ政権への牽制と見られる発言もありました。
バイデン前大統領は欠席していたものの、多くのアメリカの政府関係者が出席していた本会議。この政権交代を控えた状況下で、与野党が互いに牽制し合う様子も。民主党側は、今後もアメリカが気候変動に対してコミットメントを継続させていくべきだとの発言や姿勢を表明しているのに対し、共和党側は、化石燃料を擁護する姿勢を見せます。トランプ政権下において気候変動対策がどの程度維持されるのか、注目が集まります。
本会議の開催地であり議長国でもあるアゼルバイジャンですが、2024年11月12日の首脳級会合でのイルハム・アリエフ大統領の演説が話題に。この会合の開幕挨拶後半で石油と天然ガスは「神からの贈り物」という持論を展開し、欧米各国を中心とした「脱化石燃料」を目指す動きを牽制した発言として非難されることになりました。この発言に加え、本会議の議論が難航しているにもかかわらず議長国としてのリーダーシップを発揮できていないとして、2024年11月22日に化石賞(*2)を受賞しました。
(*2)化石賞(Fossil of the Day)とは、気候変動交渉や対策に後ろ向きな役割を果たした国に対してCOP開催中に贈られる不名誉な賞のこと。
本会議で最も注目された気候資金の目標金額についてインドからは、採択後も「目標金額が低すぎる」「富裕国が終盤まで態度を明らかにしなかった」など批判の声があげられました。インド代表のチャンドニ・ライナ氏は、「この額は微々たるものだ」、「この文書は単なる錯覚にすぎない。我々は、この文書では我々全員が直面している課題の深刻さに対処することはできないと考えている」と発言しています。当時、これからトランプ氏がアメリカ大統領に就任するという状況下で、これ以上好条件で目標が設定できないとし、最終的に途上国側がこの目標を受け入れざるを得ない形となりました。
本会議は先進国と途上国の対立が浮き彫りとなり、気候資金に関する合意形成が難航し、予定よりも2日間延長する形で閉幕しました。一方、NCQGの設定やパリ協定第6条に基づく炭素市場の完全運用化をはじめ、UAE・ベレン作業計画 (*3) に向けた進捗指標の決定や、バクー適応ハイレベル対話の開催を含むバクー適応ロードマップの立ち上げなど、重要な交渉成果も得られた会議だったともいえます。
(*3) UAE・ベレン作業計画とは、 COP28にて発足した、GGA(世界目標)の達成状況を測る指標に関する議論のための計画のこと。枠組の実施に関連する知見や情報交換、レビュー方法など、フォローアップの議論を始め、次回のCOP30までに成果を出すことを目指している。
本会議では持ち越された、ロス&ダメージに関する議論やGST(グローバル・ストックテイク)の議論などは、次回ブラジルのベレンで、2025年11月10日から22日に開催予定のCOP30で話し合われることとなります。国際情勢が不安定である昨今、議長国がより積極的に議会を調整する姿勢や、政治的リーダーシップを持つ国の存在が必要不可欠です。次回のCOP30にも注目していきましょう。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
【出典】
・COP(コップ)ってなに? 気候変動に関するCOPを紹介. (2023, October). 環境省. (参照2025.02.05)
・国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)結果概要①. (2024, November). 環境省. (参照2025.02.05)
・「NDC実施と透明性向上に向けた共同行動」の公表について. (2024, November). 環境省. (参照2025.02.05)
・気候変動枠組条約COP29報告. (2024, December). 環境省. (参照2025.02.05)
・出展企業/団体・技術. COP29 JAPAN PAVILION. (参照2025.02.05)
・COP26直前パリ協定第6条基礎講座. (2021, September). IGES. (参照2025.02.12)
・COP29に係る各国の反応. JETRO. (参照2025.02.05)
・【解説】 COP29でたどり着いた大きな合意と残る課題. (2024, November). BBC NEWS JAPAN. (参照2025.02.05)
・COP29 途上国の気候変動対策支援の資金で合意 途上国非難の声. (2024, November). NHK. (参照2025.02.05)
・COP29 超小型衛星など 日本企業の最先端の技術やノウハウ紹介. (2024, November). NHK. (参照2025.02.05)