CSDDDとは?EU新法が日本企業に与える影響や今すべき対応策を知る

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CSDDDとは?EU新法が日本企業に与える影響や今すべき対応策を知る

昨今、ESG投資やサステナビリティ経営に関する議論が活発化しており、気候変動に限らず、生物多様性や人権、社会など幅広いテーマでルール作りが進められています。直近では、EUにおいて、企業のサステナビリティ経営を促進する法律である「CSDDD」が発令されました。この背景には、複雑化するグローバルバリューチェーンに伴う人権や環境に関する問題を解決するため、責任ある企業行動の重要性が高まっていることがあげられます。

今回は、EUで法制化された「CSDDD」の概要と日本企業への影響について解説しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

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CSDDDとは

企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(以下、本指令)」は、2024年5月24日に欧州議会で採択され、同年7月25日に発令されました。これにより、EU域内の一定規模以上の企業に対し、人権および環境へのデュー・ディリジェンスの実施と開示を義務化されます。

本指令は、企業の事業活動およびバリューチェーン全体において、持続可能で責任ある企業行動を促進することを目的としています。

そもそもデュー・ディリジェンスとは?

環境・人権におけるデュー・ディリジェンスとは、企業が事業に関連する環境および人への実際および潜在的な負の影響を特定し、どのように軽減・対処したかについて説明責任を果たすために実施する一連のプロセスのことです。

このデュー・ディリジェンスの考え方は、経済協力開発機構(OECD)が策定した「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」においても規定され、国際的な指針として示されています。

OECDが発行する「責任ある企業行動に関するOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」によると、デュー・ディリジェンスは予防手段であり、リスクベースに実施されるべきだとされています。これは、人々や環境、社会に関連する実際のまたは潜在的な負の影響の深刻性と発生可能性に相応して、デュー・ディリジェンスによる措置を講じる必要があるということです。これにより、企業は負の影響を予測、防止または軽減させることができるため、持続可能な事業運営に役立つとされています。

デュー・ディリジェンスプロセス(OECDガイダンスより引用)
出典:責任ある企業行動に関するOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス.OECDより引用

欧州では、より確実に企業の行動を促すために、デュー・ディリジェンスの実施や情報開示を義務付ける法制度の導入が検討されてきており、発令にいたりました。

日本企業も対象

本指令の義務化は、EU企業のみならず、EU域外企業も対象となります。

対象企業となる要件は、EU企業であれば「全世界での年間純売上高が4億5,000ユーロ超」、かつ「平均従業員数が1,000人超」の企業とされています。

一方で、日本企業などが該当するEU域外企業の場合、EU域内での年間純売上高が4億5,000万ユーロ超の企業が対象となります(従業員数の要件はなし)。ポイントとなるのは、企業が単独で上記の要件を満たさない場合でも、グループ全体で要件を満たす場合は、最終親会社が義務化の対象となる点です。

これらの要件から、EU域内で活動する子会社を持つ日本企業も、本指令の対応が迫られることとなります。

CSDDDの概要

本指令は企業の事業活動とバリューチェーン全体において、持続可能で責任ある行動を促進することを目的としていますが、具体的にはどのようなことが求められるのでしょうか。

後述の「適用対象企業に課される義務(要求事項)」のとおり、対象企業には人権および環境に関するデュー・ディリジェンスの実施などの義務が課されており、その内容は大きく2つに分けられます。

まず1つ目は企業自身、子会社およびバリューチェーン上のビジネスパートナーの事業における、人権と環境への実際および潜在的な負の影響を特定し対処することです。

2つ目は、パリ協定が目指す1.5℃目標に整合する気候移行計画を採用・実施を義務化することです。これらが法制化されることで、市民、企業そして発展途上国に様々なメリットをもたらすと期待されています。例えば企業であれば、「責任リスクの軽減」や「持続可能性を重視する投資家にとっての魅力が高まる」といったことがあげられます。

CSDDDはいつから適用されるのか

EU加盟国は、2026年7月26日までに本指令の内容を含む国内法を制定することが求められており、さらに1年後の2027年7月26日から適用が開始されます。

すべての対象企業が一斉に適用されるのではなく、売上規模に応じて順次適用されます。最も遅い企業は5年後の2029年7月26日から適用開始です。

CSDDD適用時期
出典:Directive 2024/1760(CSDDD条文).欧州連合官報を参照し、弊社にて作成

適用対象企業に課される義務

(1)人権・環境デュー・ディリジェンスの実施

本指令が適用された企業は、リスクベースの人権および環境デュー・ディリジェンスの実施について10の要求事項が定められています。(下表参照)

出所:Directive 2024/1760(CSDDD条文).欧州連合官報を参照し弊社にて作成

これらの要求事項は、大きく6つの内容に分けることができます。

①方針への統合(第7条)

企業の関連方針やリスク管理システムにデュー・ディリジェンスを統合し、リスクベースのデュー・ディリジェンスを含んだデュー・ディリジェンス方針を策定することが求められます。この方針は、少なくとも24か月ごとに見直さなければなりません。

②負の影響の特定・評価(第8条・第9条)

自らの事業または子会社の事業、およびバリューチェーン上のビジネスパートナーから生じる、実際および潜在的な負の影響を特定・評価することが求められます。特定したすべての負の影響を同時に対処できない場合は、影響の重大性および発生の可能性に基づいて優先順位をつけて重大な影響から対処するように示されています。

③負の影響への措置(第10条・第11条・第12条)

特定された負の影響を防止または防止が不可能な場合には適切な軽減措置をとることが求められます。負の影響がすでに発生している場合は、停止するための措置を講じることが求められ、すぐに停止できない場合には影響の範囲を最小限に抑える措置を講じないといけません。また、発生している負の影響から回復させるために必要な措置を講じることも義務として定められています。

④ステークホルダー・エンゲージメント(第13条)

②③において適切な措置をとるために、ステークホルダーとエンゲージメントを実施することが求められます。エンゲージメントの際は、効果的かつ透明性のある協議を行うために、包括的な情報を提供する必要があります。

⑤苦情処理(第14条)

自社の業務、子会社の業務、バリューチェーン上のビジネスパートナーの業務に関して、実際のまたは潜在的な負の影響に正当な関心を抱く者から、企業に対する申し立てを提出できるようにしなければなりません。これは、実際に影響を受けている人々や影響を受けるかもしれないと懸念を抱く人々がアクセスできる窓口を整備することが求められています。

⑥モニタリングと情報開示(第15条・第16条)

 自社、子会社、ならびにバリューチェーン上のビジネスパートナーにおけるデュー・ディリジェンスの実施状況を定期的に評価し、年次報告書としてウェブサイト上で情報開示を行うことが求められます。実施状況の評価は少なくとも12か月ごとに行わないといけません。

(2)気候移行計画の採用・実施

本指令第22条において、気候変動緩和のための移行計画を採用し実施する義務について定められています。移行計画は、パリ協定における1.5℃目標と欧州気候法における中間および2050年までの気候中立目標と適合することが必要です。他にも、2030年までおよび2050年までの5年ごとの気候変動に関する期限付きの目標を含める、移行計画を12か月ごとに更新して目標達成に向けた進捗状況を記載するなど、移行計画に含めるべき要素が定められています。

不遵守があった場合の罰則など

本指令では、要求される義務に不遵守が認められる場合に監督当局から罰則を課せられることや、民事上の責任を負うことについても規定されています。

①罰則(第27条)

適用対象企業が第7条から第16条までに定められる義務を違反した場合に、金銭的罰則として、世界純売上高の5%以上を罰金として科されます。この金銭的罰則に応じない場合は、企業の違反に関する公的声明を出すことで社会的制裁を加えることが示されています。

②民事上の責任(第29条)

第10条および第11条で定められている負の影響に対する措置義務を順守しなかった結果、自然人または法人の法的利益に損害を生じさせた場合に、民事上の損害賠償責任を負わなければなりません。

日本企業に求められる対応

日本企業に求められる対応としては、まず自社が本指令の適用対象となるか把握する必要があるでしょう。また、ビジネスパートナーである他の企業が適用対象になった場合にも、ビジネスパートナーとしてデュー・ディリジェンスの措置を求められる可能性があるため、取引先に適用対象企業がいるかどうかも確認しておく必要があるといえます。

次に、自社、子会社、ビジネスパートナーが適用対象になる場合、いつから適用になるのかを確認する必要があります。早くても2027年から対応が迫られるため、適用時期までに社内の体制整備を進めておくと、円滑に対応ができるでしょう。

自社や子会社が本指令の適用対象外であっても、ビジネスパートナーが適用対象となることで影響が及ぶ可能性もあるため、人権・環境デュー・ディリジェンスに関して、理解を深めることが必須です。本指令はOECDや国連などが示している原則に準拠する形で定められているため、既存の原則や指針に目を通すことをお勧めします。

まとめ

今回は、EUで法制化されたCSDDDについて解説しました。CSRDと同様に、EU域内企業のみならず、域外企業も適用対象になるため、日本企業に影響を及ぼす規則です。自社が適用対象となる場合もあれば、ビジネスパートナーが適用対象となり対応を求められる場合もあることから、適用時期の確認や現状の把握、社内体制の整備など、できることから対応を始めることをお勧めします。一方で、企業の規制対応にかかる負担も認識されており、負担軽減を目的とした関連規制との統合を検討するなど、さらなる議論を重ねる方針も示されているため、今後の動向も注意深く追っていきましょう。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

【出典】

Corporate sustainability due diligence.欧州委員会(参照2024.11.22.)

Directive 2024/1760(CSDDD条文).欧州連合官報(参照2024.11.22.)

環境デュー・ディリジェンス(環境DD)に係る国内外の動向と環境省の取り組みについて.環境省(参照2024.11.22.)

責任ある企業行動に関するOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス.OECD(参照2024.11.22.)

EU の企業サステナビリティ・デュー・ディリ ジェンス指令(CSDDD)の内容と今後の展開 日本企業にどう関わってくるのか、今からできることは何か.大和総研(参照2024.11.22.)

EU首脳、産業競争力強化の方針を再確認、欧州委はCSRDとCSDDDの再編の方向性示す.日本貿易振興機構(参照2024.11.22.)

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