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気候変動課題に関するイニシアチブ「SBTi」によく似た名前の、「SBTN」をご存じでしょうか。SBTと同様に目標設定の手法を策定するイニシアチブですが、設立の目的や目標の中身は異なります。
「SBTとSBTNは何が違うの?」
「SBTはとっているが、SBTNについてはよく知らない…」
そんな方に向けて、今回は「SBTN」についてご紹介いたします。
SBTNの前に、関連する内容としてまず「SBT」をご紹介します。SBTとは「Science Based Targets」の略称で、「パリ協定が求める⽔準と整合した温室効果ガス排出量削減を目指す、国際的な削減目標」のことです。この「SBT」の認定を取得することで、自社の気候変動への意欲を具体的な数値とともに明確な目標として表すことができます。「SBTi」というイニシアチブによってSBTが設定されています。
現在日本では、上場企業様の多くを筆頭に実施が進んでいる状況で、日本は世界のなかでも特にSBTの取得が活発です。非財務情報開示のグローバルスタンダードとして地位を確立しつつある「CDP」などにもこの数値を活用できるようになっています。
SBTについては、弊社のコラムも合わせてご覧ください。
今回ご紹介する「SBTN」は、「SBTN(SBTネットワーク)」と呼ばれる組織の略称です。SBTNによって、「SBTs for Nature」という生物多様性などを含めた自然資本に関する目標が設定されています。
具体的には、「企業がバリューチェーン上の淡水・生物多様性・土地・海洋が相互に関連するシステムに関して、企業等が地球の限界内で、社会の持続可能性目標に沿って行動できるようにする、利用可能な最善の科学に基づく、測定可能で行動可能な期限付きの目標」です。
最近では「昆明・モントリオール生物多様性枠組」という国際的な目標や、「ネイチャーポジティブ」という言葉の広まりからも見られるように、自然資本の損失を防ぐことへの重要性が高まっています。
そのような背景もあるなか、「SBTs for Natureの設定を行うことで生物多様性等の関連する国連の条約や持続可能な開発目標(SDGs)に沿った行動ができるようになる」とされており、自然資本保全の取組に対して有用といえるでしょう。
「SBTN」と「SBTi」の違いをまとめると、以下になります。SBTNはSBTiの活動を継承する形で、SBTi設立メンバーに加えて他の団体や企業が加わって設立された、別個のネットワークです。
SBTNの公式ホームページ(FAQ.SBTN(参照.2024.11.13))によれば、
気候変動については、温室効果ガスの削減や増加を追跡することが重要な指標となるが、自然については、生物多様性、水、土地、海洋に関する指標を追跡する必要がある。 気候変動に対する行動はどこでも起こりうるが、自然の損失や劣化は、その要因も結果も場所によって異なる。
ともされているように、考慮すべき指標が異なるのも重要なポイントです。
以下に5つのステップの概要を示しています。
この流れに沿って具体的な取り組む必要があり、自然の損失を食い止めるため企業が貢献する意味を示すとともに、企業が理解を深めるために段階を踏めるように設計されています。
ステップ1は、「分析・評価(Assess)」を実施。
自身の企業の自然に対する最も重要な影響や依存、及びそれらがバリューチェーンのどこで発生しているかを評価・特定していきます(マテリアリティ分析・評価とも言われます)。具体的には、バリューチェーン全体の自然への影響を評価し、目標設定のための潜在的な環境と場所のリストを作成します。
ステップ2では、「理解・優先順位づけ(Interpret & Prioritize)」を実施。
自社及びバリューチェーンへの影響を俯瞰し、事業活動が全体的に最も大きな影響を与える領域を優先順位付けしていきます。ステップ1の結果を解釈し、今日から行動を始められる影響領域の中の様々な場所を把握することになります。
ステップ3では、「計測・設定・開示(Measure, Set & Disclose)」を実施。
優先ターゲット並びに場所の基本データの収集、目標設定及び開示をしていきます。具体的には、様々な場所で必要な行動の「量」の決定を開始するため、SBTNの測定枠組み案、及びSBTs又は暫定目標に関する利用可能なガイダンスを用いて目標を記述することになります。
ステップ4では、「行動(Act)」を実施。
目標を実現させるためのしっかりした計画の開発を開始するため、SBTNの行動枠組み(AR3T)、及び実施のためのベストプラクティスを用いることが予定されています。
※「AR3T」とは、事業者が地球の限界や自然に対する社会的目標に対しての行動を種類ごとにまとめたものです。回避(Avoid)、軽減(Reduce)、復元・再生(Restore & Regenerate)、変革(Transform)という4段構成になっています。
ステップ5では、「追跡(Track)」を実施。
進捗状況を監視し、公表します。必要に応じて戦略の変更も行います。これにより行動に関する内部の知識及び公への報告と、その成果を達成する行動、及び成功要因を把握することができます。
SBTNからは、ステップごとの手順をより詳しく理解するためのテクニカルガイダンスが公表されています。
現在はSTEP3までの情報が随時公開されています。
※「STEP1」「STEP2」「STEP3(淡水)」「STEP3(土地)」のv1.1と、「STEP3(海水)」のドラフトが公開済み
ガイダンスについては、2026年までのスケジュール予定が公開されております。常に最新情報をチェックするようにしましょう。
SBTNにも関連の深い、「TNFD」という情報開示のフレームワークについてご説明します。
TNFDフレームワークとは、生物多様性に係る企業情報開示を通じて資金の流れを変えることを目指す枠組みを指し、生物多様性をはじめとした自然資本に関する企業の「リスク」「機会」を開示するために使用します。
※TCFDという気候変動関連の開示フレームワークをご存じの方は、こちらの自然資本版ととらえていただけるとわかりやすいかもしれません。
TNFDについて知りたい方は、以下も合わせてご覧ください。
TNFDで推奨された手法に、「LEAPアプローチ」があります。LEAPアプローチでは、SBTNの手法を実施することで一部の要件を満たすことができるとされています。
TNFDとSBTNは、整合性をもって協力しながら発展してきたものとなります。両者の実施はシナジーの側面があるとも解釈できるでしょう。
国内外において「SBTNパイロット」といういくつかの企業が方法論開発に協力するプログラムが実施されております。
国外では、2024年10月に世界的ラグジュアリーグループであるケリングが淡水と土地の両方について初の科学的根拠に基づく目標を採択し、また、バイオ医薬品企業であるGSKと建築資材・ソリューション企業であるホルシムについても、淡水について初の科学的根拠に基づく目標を採択したとSBTNから公表されています。このように一部の先駆的な企業は、淡水と土地を中心に、自社とそのサプライヤーが事業展開する生態系における自然損失の主な要因に対処するターゲットの採択と公開を進めているそうです。
国内においては、サントリーホールディングスが世界17企業に日本で唯一選ばれました。
また公開資料としましては、テク二カルガイダンスのほかにも、「コーポレートマニュアル」というSTEP3までの理解をさらに深めるための資料も公開されておりますので、ぜひご確認ください。
現状では、枠組みの土台作り段階ともいえるSBTN。ですが今後ますます取り組みの重要性が高まることは想像に難くありません。
まずはSBTNとの整合性の高い「TNFD」などを実施していくことで、企業の取り組みを先駆的に進めていくことができます。
自然資本や生物多様性についての知識を深めたい、何も活動は決まっていないが話を聞きたい、などがありましたら、ぜひエスプールブルードットグリーンにお問い合わせください。弊社ではTNFDの支援実績もございますので、安心してご相談いただけます。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・企業の脱炭素経営への取組状況.環境省.(参照2024.10.23)
・生物多様性に係る企業活動に関する国際動向について.環境省.(参照.2024.11.13)
・SBT(Science Based Targets)について.環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ.(参照.2024.11.13)
・ネイチャーSBTs.岡田 実奈美CDPジャパン プロジェクトマネージャー.(参照.2024.11.13)
・FAQ.SBTN(参照.2024.11.13)
・ネイチャーポジティブ研究会事務局.企業等の自然関連情報の開示に関する枠組み、ツール等について.(参照.2024.11.13)
・情報開示に向けた準備、ステップの解説.環境省.(参照.2024.11.13)
・ネイチャーポジティブ経済移行戦略.環境省 自然環境局生物多様性主流化室 大澤 隆文.(参照.2024.11.13)
・SBTN announces first companies publicly adopting science-based targets for nature.SBTN.(参照.2024.11.13)
・SBTN「自然に関する科学的な目標設定の方法論」パイロット検証のケーススタディにサントリーが登場.サントリーホールディングス(参照.2024.11.13)
・サントリー「天然水の森」活動(水源涵養・生物多様性の再生/2003年~).環境省.(参照.2024.11.13)
・Companies taking action. SCIENCE BASED TARGET(参照.2024.11.26)