生物多様性の国際会議「CBD-COP16」では何が議論されたのか?関連機関の動向とまとめて解説!

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生物多様性の国際会議「CBD-COP16」では何が議論されたのか?関連機関の動向とまとめて解説!

2024年10月21日から11月2日にかけて、コロンビアのカリにおいて生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)が開催されました。本会議は、アメリカを除く196の国と地域が締結している生物多様性条約に関する意思決定を行う場であり、ここで決定された内容が、各国の政策に反映されます。本稿では、COPとは何かから、今回の決定内容までを分かりやすくお伝えします。ぜひ最後までご覧ください!

CBD-COP16とは

CBD-COP16とは、生物多様性条約第16回締約国会議のことを指します(以下、COP16)。

「COP」と聞くと、多くの方は気候変動に関する国際会議を思い浮かべるかもしれません。しかし、実は「COP」は気候変動に限らず、他の分野に関する国際会議でも使われる用語です。

COPとは、「Conference of the Parties」の略で、日本語では「締約国会議」と訳されます。これは、条約を締結した国々が集まり、条約の実施状況を確認し、必要な措置を協議する場です。実は、条約ごとに異なるCOPが開催されており、気候変動に関するCOPは「気候変動枠組条約締約国会議」のことを指します。

一方、今回のCOP16は「生物多様性条約」の締約国会議です。生物多様性の保全と持続可能な利用を促進するための議論をする重要な場となります。

COPが日本企業に及ぼす影響

COPで決まった内容は、日本企業の活動にも大きな影響を与えます。2022年12月に開催された前回のCOP15を例に、その影響を見てみましょう。

COP15での最大の成果は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(Global Biodiversity Framework:GBF)」が採択されたことです。この枠組みは、生物多様性保全に向けた国際的な目標を定めたもので、各国が取り組むべき方向性を示しています。

昆明・モントリオール生物多様性枠組の概要
出典:みんなで学ぶ、みんなで守る生物多様性.環境省を基に弊社作成 

これを受けて、日本政府は生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な方針を示す「生物多様性国家戦略」の見直しを行い、2023年5月に閣議決定しました。現在は、その内容に基づく具体的な施策が実行されています。

例えば、環境省が取り組んでいる「自然共生サイト」の認定制度もこの一つです。これは、企業が管理する森林や都市の緑地など、民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られている場所を認定する制度です。この取り組みは、GBFの目標の一つの、2030年までに世界全体の陸域・海域の30%を保護するという「30by30」目標達成に向けた一環として行われています。

このように、COPで決まった国際的な目標や枠組みは、日本国内の政策や規制にも大きな影響を与えています。企業にとっても、これらの動向を把握し、積極的な対応をすることが必要です。

COP16の議論の概要

今回のCOP16では、前回のCOP15で定めた目標の達成に向けた具体的な方策や、取り組みの評価方法が大きな焦点となりました。約30の議題が議論されましたが、一部の議題については時間内に意見がまとまらず、一時休会となりました。合意に至らなかった議題については、今後さらに追加の議論の場が設けられる予定です。

COP16の主な議題 (太字は本稿で扱う議題)

COP16の議題
出典:Compilation of Draft Decisions for the Sixteenth Meeting of the Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity. Convention on Biological Diversity.を基に弊社和訳・作成

しかし、進展が全くなかったわけではありません。例えば、生態系保全の取り組み状況を評価する指標案については、ほぼ合意に至ったことが報告されています。このように、全ての議題で合意が得られたわけではありませんが、一定の進捗が見られたことは評価できます。

今回は、特に注目されていた3つの議題について、取り上げて説明します。

議題9:遺伝資源のデジタル配列情報の使用に係る利益配分に関する多国間メカニズム

DSI(Digital Sequence Information)とは、デジタル化された遺伝情報を指し、新薬やバイオ燃料の開発などに利用されていますが、これらから得た利益は、途上国を中心とする遺伝資源の保有国に還元するべきではないかという議論が進んでいました。

COP16では、これに対応する仕組みとして、「カリ基金」の設立が決定され、遺伝資源の保有国がGBFの達成に向けた取り組みに必要な基金を「カリ基金」から受け取ることが想定されています。資金拠出の対象は、医薬品、健康食品、化粧品などの業種に属する企業が想定されており、より詳細な対象企業や拠出額等の詳細はCOP17において検討される予定です。

議題10:計画、モニタリング、報告及びレビューのためのメカニズム

COP15 で採択された国際目標であるGBF の進捗状況を評価する指標や、COP17とCOP19 で実施が予定されているグローバルレビューの仕組みが議論されました。これらについて、指標の内容が概ね決定され、数値での評価が難しい取り組みについては、選択回答式の指標で評価すること、COP17やCOP19の開催前に各国が報告書を提出することなどが概ね決定されたものの、期間内に採択には至りませんでした。

なお、提案されている指標の一部は以下の通りです。今後、各国の政府は、次回のCOPでこれらの指標に従って自国の取り組み状況を報告できるよう、国内での対応を進めていくことになります。

COP16において提案された指標

COPにおいて提案された指標
出典:Compilation of Draft Decisions for the Sixteenth Meeting of the Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity. Convention on Biological Diversityを基に弊社和訳・作成

議題11:資源動員及び資金メカニズム

GBFのターゲット19では、生物多様性の保全のため、あらゆる資金源から年間2000億ドルまで増加させ、そのうち先進国から途上国への国際資金は2025年までに年間200億ドル、2030年までに年間300億ドルまで増加させるとしています。今回、これを達成するための2025年以降の戦略について議論がなされましたが、アフリカ諸国が新基金の設立を求める一方で、先進国は新基金の設立は必要ないと主張するなど、意見の隔たりが大きく、合意には至りませんでした。

関連機関の動向

COP開催中は、こうした議論の一方で、イニシアティブや投資家などあらゆる団体から声明文が出されるのも特徴です。

TNFD

TNFDからの公表内容について、ここでは3つ取り上げます。

1つ目は、TNFD Adoptersについてです。TNFD Adoptersは、企業がFY25までにTNFDに沿って開示を行うことへの表明であり、登録数が500社を超えたと発表されました。また、日本の登録数は最も多く、134社に上ります(2024年11月8日時点)。このことかから、日本企業の生物多様性への積極的な姿勢が読み取れます。

2つ目に、日本政府からTNFDへの資金提供が公表されました。この動きは、日本政府が生物多様性の保護に向けて国際的なリーダーシップを発揮しようとしていることを示しています。また、日本政府がこのイニシアティブに対して資金を提供することで、国内外の企業や投資家に対し、生物多様性への配慮を求める強いメッセージを発信していると言えるでしょう。

3つ目は、自然移行計画に関するガイダンス草案の公表です。自然移行計画は、GBF達成に貢献するために求められる、組織のゴールや目標、行動、説明責任のメカニズム、意図するリソースを示すものです。このガイダンスは、温室効果ガス排出を除く、自然に関するあらゆる側面を対象としています。 また、TNFDはこの策定にあたって、GFANZ、SBTN、WWFなど、関連する様々なイニシアティブやナレッジ・パートナーと協力しており、今後の企業の取り組みのヒントとなります。

SBTN

自然に関する科学的な目標設定を支援する機関であるSBTN(Science Based Targets Network)は、SBTNのガイダンスに基づいた目標が、企業の公式な目標として初めて採用されたことを発表しました。今回、世界的な高級ブランドグループであるKeringが淡水と土地に関する目標を、バイオ医薬品企業のGSKと建築資材・ソリューション企業のHolcimが淡水に関する目標を設定しました。

SBTNはガイダンスの公表から1年にわたりパイロットプログラム(試験運用プログラム)を実施し、参加した企業の約60%が認証を取得しました。その中でも、先述のKering、GSK、Holcimの3社が目標を公表し、正式に採用するに至っています。

また、今回目標を正式に採用しなかったパイロット企業については、2024年7月に発表されたSBTNの最新ガイダンスに基づいて目標を再提出する企業もいれば、将来的な目標設定に向けた知見を得るための学びの機会と位置付けている企業もいます。

この他に、SBTNが提供するプログラム等を通じて150社以上が目標設定の準備を進めており、生物多様性の分野においても統一された手法による目標設定が増加することが予想されます。

まとめ

今回のCOP16を通じて、GBF達成に向けた取り組みやその評価方法について、重要な進展が見られました。この議論内容は、今後国内外の様々な政策やフレームワークに反映されることが期待されており、政府や各イニシアティブからの発信に引き続き注目することが重要です。

さらに、開示数が急速に増加しているTNFDは、GBFと整合性を持たせて作成されたフレームワークであり、企業としては、今後の変化に迅速に対応するためにも、TNFDに基づく分析の実施や指標の開示を進めることが不可欠です。

エスプールブルードットグリーンの支援について

弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

<出典>

みんなで学ぶ、みんなで守る生物多様性.環境省(2024年11月参照) 

身近な自然も対象に「自然共生サイト」.環境省(2024年11月参照) 

Compilation of Draft Decisions for the Sixteenth Meeting of the Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity. Convention on Biological Diversity (2024年11月参照) 

Biodiversity COP 16: Important Agreements Reached Towards making Peace with Nature. Convention on Biological Diversity(2024年11月参照) 

生物多様性条約第 16 回締約国会議(CBD-COP16)等の結果概要.環境省(2024年11月参照) 

Over 500 organisations and $17.7 trillion AUM now committed to TNFD-aligned risk management and corporate reporting.TNFD(2024年11月参照) 

TNFD Adopters.TNFD(2024年11月参照) 

TNFD secures funding from the Government of Japan.TNFD(2024年11月参照) 

Discussion paper on nature transition plans.TNFD(2024年11月参照) 

SBTN announces first companies publicly adopting science-based targets for nature.SBTN(2024年11月参照) 

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