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昨今では企業がサステナビリティ経営を行ううえで、温室効果ガスの見える化が求められております。見える化とは具体的に「GHGプロトコル」の決まりに基づきながら、定められた計算式を用いることで温室効果ガスを数値として算出することです。
温室効果ガスにはいくつかのグループ分けが存在します。まず前提として「直接排出」と「間接排出」という、「自社の事業プロセスにおいて直接的に温室効果ガスを発生させている」または、「他社のサービスを利用した際にそのサービスの生成時に排出されたものを加味して計上する」という2つの考え方があります。その考えを土台として、企業の温室効果ガスの総排出量を3つに分けたものが、「Scope」という区分です。
今回は、「Scope2」の算定の際に大切な概念となる「マーケット基準」「ロケーション基準」についてご紹介いたします。
はじめに、温室効果ガスの区分であるScopeについてご紹介します。
Scope1とは、報告企業が所有あるいはコントロールしている発生源での燃料の燃焼による直接排出を指します。
Scope2とは、他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出のことです。
Scope3とは、Scope2に含まれない間接排出を指します。Scope3はさらに細かく「カテゴリ」とよばれる15分類があります。
Scope2の代表例としては、他社のエネルギー生産プロセスから得られる「電力」や「熱」を購入し、自社で照明などに電気を使用していたり、工場の冷却に用いる場合が挙げられます。
次に温室効果ガス算定の大枠となる考え方をご紹介します。
基本となるのは、「活動量」×「排出原単位」というシンプルな考え方です。
Scope2の中で多くの企業様において排出割合の大部分を占めるのは、「電力」となります。前述の「活動量」×「排出原単位」に則って計算式を考えると、以下のようになります。
「活動量…電力使用量」×「排出原単位…電気1kWh使用あたりのCO2排出量」
「電気1kWh使用あたりのCO2排出量」は、自社の使用している電力の情報を確認すれば係数として得られます。ただし電力使用に基づく温室効果ガスの排出量を算出するうえではとある特有の考え方があり、注意が必要です。マーケット基準とロケーション基準のどちらを用いるか、ということを必ず考える必要があるのです。
2つの基準の定義は以下の通りです。
マーケット基準:契約や電力会社の選択に基づいた係数を反映する
ロケーション基準:エネルギー消費がなされた地域もしくは国で通常規定されている平均排出原単位を反映する
つまり、マーケット基準は電力メニューに基づく値であり、ロケーション基準は地域に基づく値であるということです。
マーケット基準とロケーション基準は、その考え方の違いにより結果から読み取れる内容が大きく異なります。
マーケット基準は契約ごとの細かな数値を用いることができるため、精度はより高くなります。低炭素電力を購入しているかどうかという、自社の選択における削減活動を示すことができるでしょう。
ロケーション基準ではあくまでも平均排出量であるため、数値としては少々大まかなデータになります。ですが一方で、経年比較や国レベルでの相違点を比較する際には有効です。
計算方法を具体的にご紹介いたします。環境省によりそれぞれの排出係数が公開されており、「小売電気事業者」の表からマーケット基準が、「一般送電事業者」からロケーション基準の係数が確認できます。
マーケット基準では、自社の契約している電力会社の情報をたどり、排出係数をかけあわせます。また、電力証書や再エネクレジットでの購入分での電力についても、電力会社の契約に対して排出係数を0として計算を実施。
ロケーション基準では、環境省によって公表されている、地域ごとに固有の数値を使用します。
具体的には以下のような、各地域で報告されている「調整後排出係数」を指します。基本的には共通の「全国平均排出係数」という数値が用いられますが、沖縄県のみ数値が異なりますので注意が必要です。
両基準は定期的に情報の更新が行われますので、最新の係数を用いるように常にデータをチェックしましょう。
ここまで読んでいただくと、「では自社で計算するときにどちらを使うべきなのか?」と思われるかもしれません。結論としましては、「可能な限り両基準を使用した数値を算出すべき」といえます。つまり、2種類の結果を併記するということです。
「GHGプロトコル」という算定の国際的な基準では、「契約証書の形式で、エネルギー製品又は供給業者固有データを提供している市場で事業を行っている事業者は、二つの方法でスコープ2排出量を報告し、かつ手法に従った各々の算定結果をはっきりと分けなければならない(shall)。 」とされています。つまり、一般的に契約による電力購入を行っているものについては両基準の数値の算出が必要になるということです。
ただし海外の拠点などでは、マーケット基準の情報が手に入らない場合がありますので、その場合もロケーション基準の値をマーケット基準の値として用いることがあります。CDPによれば、「マーケット基準は、最善の努力をした上でより使用電力の実態に近い係数を選んでいただく方法になります。ですので、混在ということではなく、マーケット基準係数として、best availableな係数であるロケーションと同じ係数を使った、という考え方です。」とされています。
ロケーション基準では、非化石証書が使用できません。ロケーション基準ではすべての値の平均値を用いているため、すでに太陽光発電などをはじめとした再生可能エネルギーの環境価値も反映したことになり、環境価値の二重計上になってしまうからです。どちらの基準を用いているかで異なるポイントとなりますので、非化石証書がある場合には注意が必要です。
非化石証書の活用とScope2の関係については、弊社のこちらの記事も合わせてご確認ください。
気候変動に対する活動情報を報告する質問書「CDP」から出されている資料では「CDPでは両方の基準での算定・公表を推奨」とされており、CDP2024でも実際の設問の採点上でも両方報告することがもっとも高い得点の獲得につながっています。
温室効果ガス削減の目標設定「SBT」では、温室効果ガスの算定結果を報告する必要があります。SBTからは「GHGプロトコルScope2ガイダンスのロケーション基準、マーケット基準のどちらを利用しているのかを開示する必要がある。」とされています。
このことからも、マーケット基準とロケーション基準はScope2算定時に欠かせない大事な概念ということがわかります。
Scope2を含む排出量算定を行うことで、自社の温室効果ガス排出量を見える化することができるだけではなく、ホームページに掲載などを行うことでサプライヤーをはじめとしたステークホルダーへのアピールにもつながるでしょう。
温室効果ガスの算定を行う際には、マーケット基準とロケーション基準両方の数値をしっかりと算出することで、より開示物としての精度を高めることができます。
自社で算定を行う方も、外部に依頼しようかと検討いただいている方も、少しでも悩み事があればぜひエスプールブルードットグリーンにご相談ください。
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CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・サプライチェーン排出量全般.環境省.(参照2024.11.6)
・サプライチェーン排出量算定の考え方.環境省.(参照2024.11.6)
・グリーンハウス・ガス・プロトコル GHGプロトコル・スコープ2ガイダンス GHGプロトコル・コーポレートスタンダードの変更.世界資源研究所.(参照2024.11.6)
・排出量算定・スコープ1,2の考え方について.CDP Worldwide-Japan.(参照2024.11.6)
・算定方法・排出係数一覧.環境省.(参照2024.11.6)
・5月12日ウェビナーの質疑応答に基づく、スコープ1,2算定に関するQ&A.CDP.(参照2024.11.6)
・CDPジャパンウェビナースコープ2をどう下げるか:再エネ調達の考え方と日本での適用CDP.Worldwide-Japan高瀬香絵.(参照2024.11.6)
・7. SBTの認定基準.環境省.(参照2024.11.6)
・環境データ.資生堂.(参照2024.11.6)