DAC(Direct Air Capture)とは、大気中から直接CO₂を分離・回収する技術のこと。
日本では2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて、再エネや省エネなどのCO₂排出量を抑制する技術を積極的に取り入れています。しかし、それだけでは排出量をゼロにすることはできず、カーボンニュートラルの実現には不十分であるとされています。そのため、再エネや省エネなどのCO₂排出量を抑制する技術以外に、CO₂を分離・回収して固定化する技術を用いたネガティブエミッションが必要不可欠です。
DACの具体的な方法としては、液体にCO₂を吸収させて回収する化学吸収法や、冷却して固体(ドライアイス)にして回収する深冷分離法など、さまざまな技術が研究されています。また回収されたCO₂は燃料の原料として利用したり、地中深くに貯留したりすることによって大気中のCO₂削減に貢献することができます。
DACと似ている技術で、CO₂を回収した後に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という技術があります。
CCS はCO₂を分離・回収し地中などに貯留する技術のことを指し、CO₂を回収する技術という点で、DACと共通。その主な違いとしては、CO₂をどこから回収するかの部分で違いがあります。DACは大気中のCO₂を回収する技術なのに対し、CCS はCO₂を発電所や化学工場といった排出源から集め、地中深くに貯留・圧入する技術です。
CCSとCO₂を回収する技術という点で共通しているDACは、CCSとつなげてDACCSとも呼ばれます。
大気中からCO₂を回収する技術であるDACには、大きく分けて下記の4つの方法があります。それぞれ見ていきましょう。
化学吸収法とは、CO₂を吸収する溶液の化学反応を利用して、CO₂を回収する技術のこと。CO₂を吸収する化学溶液を使用し、大気中のCO₂を液に吸収させた後、加熱することでCO₂を分離・回収する技術です。化学吸収法は低コストであるため、火力発電所や製鉄用の施設など、大規模なCO₂排出源にも適しています。
課題として、加熱する際に大量のエネルギーが必要となるため、CO₂の回収に要する熱エネルギーコストの削減などがあります。
物理吸着法とは、CO₂を吸収する吸着剤の物理的な吸着作用を利用して、温度と圧力を変化させてCO₂を分離する技術です。吸着材を高圧・低温下に置くことでCO₂が吸着。それを減圧または加熱することでCO₂を脱離させることができ、CO₂を回収することができます。化学吸収法との大きな違いは、化学反応法は吸着させる際に化学反応を利用するのに対し、物理吸着法は吸着させる際に温度と圧力を利用する点です。
課題として、CO₂の吸着から脱離までの時間が長いことが挙げられます。
膜分離法とは、圧力とCO₂を選択的に透過する膜を利用して、CO₂を分離する技術です。
膜の上流側を加圧するか下流側を減圧することで、その圧力差を利用してCO₂のみが通過。化学吸収法や物理吸着法と違って熱エネルギーを必要としないため、他の技術に比べてエネルギー消費が少なくなる場合が多いというメリットが挙げられます。
課題として、分離対象であるガスにはCO₂より分子の小さい窒素や水素が含まれており、高い純度でCO₂を回収するには高い技術が必要になります。
深冷分離法とは、分離対象となる気体に含まれている成分の沸点の違いを利用して、温度と圧力によりCO₂を分離する方法です。CO₂を含んだ気体混合物に、-20℃以下の低温状態で圧力をかけてCO₂を液化することで、CO₂を分離することができます。
課題として、他の技術に比べて設備コストが高額になり、また必要なエネルギーも大きいため、実用化されていないという点が挙げられます。
CCSは企業などがCO₂の排出規制を解決するために用いられるのに対し、DACは大気からCO₂を回収するため、企業の排出量を下げるためのものではありません。そのためDACは、国や政府などの組織が資金を提供することによって使用される場合が多いです。
例えばアメリカでは、CDR(二酸化炭素除去)に関する支援として、DACに関する特別措置を追加し、CO₂の1トン当たり最大180ドルの税額控除を行っています。またアメリカ国内に年間100万トンのCO₂を吸収・貯留できるDAC設備を設置するために、35億ドルもの金額を投資する動きが。欧州でも2030年までに、DACの活用も視野に入れて年間50MtのCO₂を吸収・貯留することを目指しています。
一方日本においても小規模のDAC設備が稼働しており、2023年1月にDACの活用を含めて、2030年までに年間1200万tのCO₂を回収することを目標としたロードマップを設定しています。
冒頭でも触れたように、日本や世界では2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標としています。しかし、気候変動に関して評価する政府間組織である「IPCC」は、過去30年間において人為的なGHG排出量が増加し続けていることを報告。また現在策定されている政策では不十分であり、2050年までのカーボンニュートラルの実現目標は達成できないことを示しています。
その対策として、温暖化を抑えるには今以上に様々な取り組みが必要となり、DAC技術を用いてCO₂を回収し、固定化するネガティブエミッションが必要不可欠とされています。
大気中からCO₂を回収する技術であるDACには、大きく分けて2つのメリットがあります。
1つ目のメリットは、大幅なコストの削減に繋がる可能性が高い点です。CCSなどを用いて工場でCO₂を回収した場合、窒素酸化物などの有害物質が含まれているため、高純度でCO₂を取り出す必要がありコストが大きくかかってしまいます。しかしDACであれば大気中からCO₂を回収することができるため、低純度のCO₂でも回収し貯留することが可能となります。そのため、大幅なコストの削減に繋げることができるのです。
2つ目のメリットは、設置する場所の制限が少ない点です。DACは大気中のCO₂を回収するという特性上、砂漠や海上など土地が余っている場所にも設置することが可能です。また植林やブルーカーボンなど他のネガティブエミッション手法と比較して、設置面積が少ないといったメリットもあります。
一方で、DACの課題として以下の点が挙げられます。
主な課題として、現状DACにかかるコストが大きいという課題が挙げられます。既に国や政府などの資金によって実用化されているものの、濃度の低い大気中のCO₂を回収するためには、排気ガス中のCO₂回収と比較して、10倍以上のコストが必要です。今後この課題を解決するために、よりCO₂と結合しやすい技術や、大気中のCO₂を効率良く吸収・分離する技術が求められています。
DACは、大気のある場所であれば地球上のどこであってもCO₂の回収が可能です。しかし一方で、その運転に必要な多くのエネルギーを、再エネや原子力発電などのカーボンフリーな電力から供給する必要があるという課題があります。そのためコストを抑えるためには、それらのカーボンフリーな電力を安価に安定して供給できる国・地域にDAC設備を設置する必要が出てきます。
今回は、大気中からCO₂を回収する技術であるDACについてご紹介しました。DACは世界的に注目されており、アメリカを筆頭に今後さらに取り組みが加速していくと考えられています。現状コストという課題が大きいものの、今後より効率良く吸収する技術が発達していけばカーボンニュートラルの実現に大きく貢献すると考えられます。今後の動向を把握していく際に、少しでもお役に立てていただければ幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
〈出典〉
DAC(直接空気回収技術)とは?. (2023, August).産総研マガジン. (参照2024.08.26)
知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」. (2017, November).経済産業省資源エネルギー庁. (参照2024.08.26)
国内外の技術動向調査.環境省. (参照2024.08.26)
CO2分離回収技術の進化で、カーボンニュートラル実現を目指す!. (2023, August). NEDO. (参照2024.08.26)
ネガティブエミッション市場創出に向けた今後の方針について. (2023, November).経済産業省. (参照2024.08.26)
Direct Air Capture. (2024, April). IEA. (参照2024.08.26)
温暖化は今どうなっている?目標は達成できそう?「IPCC」の最新報告書. (2022, November).経済産業省資源エネルギー庁. (参照2024.08.26)
大気中からのCO2直接回収と地中貯留でネガティブエミッションを達成するコンセプトを構築!. (2021, June ).九州大学. (参照2024.08.26)
ネガティブエミッション技術について. (2022, February).経済産業省. (参照2024.08.26)
【DAC(Direct Air Capture)研究会】. (2021, October).産業競争力懇談会. (参照2024.08.26)