2024年2月6日、企業の環境に関する情報開示の評価を行うCDPが、2023年度の CDPスコアを発表しました。今回はCDPスコアの結果概要と2024年度のCDPスコアに関する変更点をお伝えします。
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まず、気候変動質問書に関する変更点と日本企業のスコア分布について見ていきましょう。
2023年CDP質問書ではこれまでと同じく、企業の1.5℃世界への移行計画の推進・進捗に関する開示が強化されていました。主な強化内容は以下の通りです。
加えて質問書の一般設問にも変更点が。1設問が削除・統合され、25設問が修正され、そして7設問(タクソノミー2問、子会社別排出量内訳2問、生物多様性2問、業界共同の取り組み1問)が新設されました。
上記のような変更点があった2023年質問書ですが、日本企業のスコアはどのような結果になったのでしょうか。
下記グラフの赤枠で囲まれている範囲が、2023年CDP質問書に実際に回答した企業のスコアです。回答企業にはA~D-のスコアが付与され、回答を要請されたにも関わらず未回答だった企業にはFのスコアが付与されます。ちなみにSAは「See Another」の略。「他の企業(グループ親会社など)の回答を参照してください」という意味で使われています。
2023年CDP気候変動質問書における日本企業の回答総数は、要請数の68.4%にあたる1,585社。2022年と比較し、回答企業数は353社増加しました。また回答企業の中で、最高評価であるAスコアを獲得した企業数は過去最高の109社。世界全体でのAスコア企業数は346社ですから、約3分の1を日本企業が占める結果となりました。
次に、水セキュリティ質問書に関する変更点と日本企業のスコア分布についてお伝えします。
2023年CDP質問書では、バリューチェーンにおける行動・対応や水質汚染と有害物質、移行、水関連目標に関する開示が強化されました。それに加えて注目が集まったのが、プラスチックモジュールの導入。実はCDPの調査で、88%の企業が「自社にプラスチック関連の課題がある」と認識しているにも関わらず、33%の企業しかプラスチック関連の目標を設定していないことが分かったのです。さらにCDPを参考にしている投資家・金融機関・調達企業の81%は、CDPが求めるプラスチックに関する情報は、財務や調達の意思決定に有用であると回答していることも明らかに。こうした背景から、プラスチックモジュールの導入が決まりました。そのため2023年CDP質問書では、水汚染の硝酸塩、リン酸塩、農薬、その他の有害物質の水への直接排出抑制/低減、管理方法に加え、プラスチックの販売・使用したプラスチック包装の総重量と原材料などに関する設問がポイントとなったのです。
また一般設問では、設問数が71から85に増加。具体的には4設問が削除・統合され、19設問が修正され、そして18設問(プラスチックに関するモジュール:9設問、有害物質・バリューチェーン6設問、汚染管理2設問、水関連目標1設問)が新設されました。加えて、特定分野に関するセクター別設問の石炭(CO)には7設問、農産品(AC)には8設問が新設されました。
上記のような変更点があった2023年質問書ですが、日本企業のスコアはどのような結果になったのでしょうか。
2023年CDP水セキュリティ質問書における日本企業の回答総数は、要請数の47.8%にあたる616社。回答企業のうち、最高評価であるAスコアを獲得した企業は36社でした(世界全体でのAスコア企業数は101社)。2023年度の回答要請が2022年と比較し約3倍拡大したことにより、回答企業数は約250社増加。その結果、未回答企業社数(Fスコア)が大幅に増加し、初回答企業の多さからC~Dスコアも増加しました。一方で高スコア企業社数(A,A-スコア)に関しては横ばいの結果となりました。
ここまで2023年度のCDPスコアについてお伝えしてきましたが、2024年度版には通年比べ大きな変更点がいくつかあるため注意が必要です。
回答提出期間について、例年では【4月~7月】だったところ、2024年度版では 【6月~9月】に変更。回答期間の長さは変わらないものの、時期が2ヶ月後ろ倒しになるため注意が必要です。
加えて、質問書自体も大きく変わります。これまで質問書は、「気候変動」「水セキュリティ」「フォレスト」と 3つに分かれていましたが、2024 度版からは一つの質問書に統合。それぞれの質問書で重複していた質問が排除される一方で、スコアはこれまで通り「気候変動」「水セキュリティ」「フォレスト」のテーマごとに付与されます。また質問書統合に連動して、再構築も実施。複雑さが軽減され、開示にかかる時間の短縮を目指した質問書が作成されます。加えて中小企業向けの質問書も導入される予定です。これまでCDPの回答要請が出されていたのは、主に上場企業。しかしScope3にはサプライヤー企業の排出量が該当するなど、上場企業以外の影響も無視できない状況になっています。このような背景から導入が予定されています。
またCDPは、2022年11月に2024年の質問書からIFRS S2(気候関連開示)と整合させることを発表。IFRS S2とは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定したフレームワークIFRSの中でも特に気候関連のリスク及び機会に関する開示要求項目をまとめているもので、日本では2026年頃からの導入が予定されています。整合の目的に関してCDPは、『各国で進む情報開示の義務化に先行した対応のサポート』や『各国の規制で求められる以上のメリットの提供』と言及。 ちなみにCDPとIFRS S2の整合について、公式発表では「2024年版から整合」とされていますが、弊社独自の調査の結果、以下図のようにCDP2023年質問書でも、既にIFRS S2の開示要求項目に整合した設問が設けられていたことが分かりました。
現在のオンライン回答システムは、回答がしづらいという課題があがっています。今後は回答管理、回答作業、データへのアクセスについて改善を予定。より快適に回答作業や内容が確認でき、社内で共同作業ができるセルフサービス機能が強化されます。加えて開示要請者が回答進捗状況をより追跡しやすくする管理機能も導入される予定です。
今回のコラムでは、2023年CDPスコアの結果概要や2024年CDP質問書の変更点についてお伝えしてきました。未回答企業も2023年度に回答した企業も、2024年度は変更点を踏まえながら回答準備することが大切です。「何をすればいいのかわからない」「変更点にどのように対応すればよいかわからない」場合は、CDP回答支援を行う弊社にお気軽にご相談ください。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
『Cdp. (2023, March 10). CDP Worldwide-Japan CDP2022から視た日本の金融機関のベンチマーク』
『Cdp. CDP Worldwide-Japan CDPプラスチック情報開示』