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今回はCDP気候変動レポートのスコアアップに向けた回答方法をお伝えします。実はCDPには「気候変動レポート」に加え、水関連のリスクを評価する「水セキュリティレポート」、森林減少リスクを評価する「フォレストレポート」があります。中でも注目が集まるのが、「水セキュリティレポート」。近年回答を要請される企業が急増しています。
そこで今回は「水セキュリティ」の回答要請が急増した背景、また気候変動レポートとの違いについて紹介していきます。
2022年に水セキュリティの回答が要請された企業は、369社。ところが、2023年には約1200社に回答要請が出され、2022年から約800社以上も増加しました。
なぜCDPは、要請の範囲をこれほどまで拡大する判断に踏み切ったのでしょうか。その理由は水リスクが気候変動と同じく、リスクも機会もはらんでいることにあります。
前提として、主に水資源を活用する企業(サプライチェーンも含む)にとって、水量不足・水質の悪化・洪水といった水ストレス起因の水リスクは、企業活動に大きな影響を及ぼすと考えられています。
そのうえでCDPは、水の「リスク」に関して以下のような考え方を表明しています。
■2030年までに世界の水供給は56%不足する見込み
■水リスクの財務への潜在的な影響は3,360億米ドル
こうしたマイナスの要素がある一方で、気候変動と同じく下記のような「機会」もあると、CDPは考えています。
■水関連のビジネス機会の総額は7,110億米ドル
■回答することで、サプライチェーンのレジリエンス向上が可能
このような背景を踏まえ、CDPは水セキュリティにおいても気候変動と同様に自社のリスクを排除して、適切な事業機会を得ることが重要だと判断。2022年に気候変動の回答要請をプライム企業に拡大させたことに併せて、2023年からは水セキュリティの回答要請もプライム企業に拡大させたのです。
では実際どんな企業に「水セキュリティ」の回答要請が出されているのでしょうか?CDPは以下4点のポイントの下、回答要請を出す企業を選定しています。
…自社単体だけでなく、サプライチェーンや製品使用時などを含め、水セキュリティに有害な影響を与えるかどうか。
…水セキュリティに与える影響、もしくは水リスクから受ける影響はどの程度大きいか。
上記【1】【2】については、CDP独自のツール“WATER WATCH”を使用して確認されます。
=====“WATER WATCH”とは=====
学術出版物や、国連などの出版物、業界レポートなど信頼できる独立した情報源に基づき、CDPが独自に開発したツール。水に関する影響度合いを5段階でランク付けするもので、2023年は下から2番目以降のランクの企業に回答要請が出されています。注意したいのは、サプライチェーンや製品使用時も加味して影響度が測られること。そのため「自社での水使用量は少ないが、回答要請の対象となっている」という企業もあります。
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…「水に関するビジネスによって、どのくらいの収益が生まれているか」について、有価証券報告書を用いて確認されます。
…アパレル業界は、業界を通して年間の水使用量が多いと試算されています。そのため【1】~【3】の条件に当てはまらなくても、時価総額が業界の上位100社以内の企業や、水への影響度が高いと判断された大手アパレル企業には回答要請が出されています。
このような選定基準の下、回答要請が出された企業には、どのような質問書が送られているのでしょうか?ここでは水セキュリティ質問書の構成についてご紹介しながら、気候変動レポートとの違いをお伝えしていきます。
質問の数は全部で、85問。気候変動質問書(136問)に比べると、質問数が少ないことが特徴です。ただ2022年の水セキュリティ質問書の質問数は約70問だったため、去年に比べると10問ほど増えています。
気候変動質問書は、ガバナンス体制やリスク管理などの基本的な項目から始まるのに対し、水セキュリティ質問書では、水量データやバリューチェーンとの協働といった質問からスタート。それ以降も「データが取れていることが前提」の質問で構成されているため、「水に関する定量的なデータをどれだけ取れているか」が重要となります。そのためそもそもデータを保有できていない企業にとっては、得点を得づらい構成と言えます。
気候変動質問書で問われているCO₂は、国やグローバル全体での削減目標があるのに対して、水にはそういった大々的な目標はありません。そのため社内での議論があまり進んでおらず、質問書で求められているデータが取れていない企業も。要請が来た以上回答は検討すべきですが、事前準備が不十分なまま回答した場合、未回答企業に与えられる「Fスコア」と同等の評価が与えられてしまう可能性もあります。そのため「どこまで回答できるか」といった自社の状況を踏まえて、慎重に検討した方が良いでしょう。
では、CDP水セキュリティに回答するにあたって具体的にどのようなデータが必要なのでしょうか。ここでは実際の質問を参照しながら、お伝えしていきます。
必要となるデータは各企業の対応状況によりますが、「気候変動質問書での回答を応用できるもの」「取り組み済みではあるが、改めて詳細な情報が必要になるもの」「イチから見える化をしなければならないもの」など様々です。
今回のコラムでは、水セキュリティについてお伝えしてきました。水セキュリティの質問書では、「事業活動に伴う水の供給や品質、水資源管理、水関連リスクの認識や対策、サプライチェーンでの水利用など、水に関する様々な側面について評価し、改善していくこと」が求められています。そのため、
■回答に必要な水に関する定量的なデータの取得
■上記データをもとにしたリスク管理体制の整備/リスク・機会の特定(サプライチェーン全体)
■水に関する目標設定
などといった事前準備が必要不可欠です。質問書の構成上、取水量・排水量など定量的なデータの影響が大きく、自社だけでなくサプライチェーン上の状況把握も重要になる「水セキュリティ」。気候変動よりも回答のハードルが高いからこそ、まずは1年程かけて水関連のデータ収集といった事前準備から始めてみてはいかがでしょうか。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
出典:
『CDP 水セキュリティレポート 2022: 日本版. (2023, February). CDP.』
『700 社以上の金融機関(日本の署名機関数 29 社)が 企業へ過去最大規模の環境情報開示要請. (2023, March 13). CDP.』